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ナゾロジー

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?><rss version="2.0" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom" xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/" xmlns:slash="http://purl.org/rss/1.0/modules/slash/" xmlns:georss="http://www.georss.org/georss" xmlns:geo="http://www.w3.org/2003/01/geo/wgs84_pos#" xmlns:media="http://search.yahoo.com/mrss/"> <channel> <title>ナゾロジー</title> <atom:link href="https://nazology.kusuguru.co.jp/feed" rel="self" type="application/rss+xml" /> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp</link> <description>ふしぎな科学と最新ニュースを楽しく配信!</description> <lastBuildDate>Fri, 11 Apr 2025 12:26:49 +0000</lastBuildDate> <language>ja</language> <sy:updatePeriod> hourly </sy:updatePeriod> <sy:updateFrequency> 1 </sy:updateFrequency> <generator>https://wordpress.org/?v=5.5.9</generator> <atom:link rel="hub" href="https://pubsubhubbub.appspot.com"/><atom:link rel="hub" href="https://pubsubhubbub.superfeedr.com"/><site xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">137755901</site> <item> <title>女性はお酒を飲むと惚れっぽくなり、男性は冷める傾向がある</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/166315</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/166315#respond</comments> <dc:creator><![CDATA[高橋 実可子]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 22:00:32 +0000</pubDate> <category><![CDATA[心理学]]></category> <category><![CDATA[アルコール]]></category> <category><![CDATA[コミュニケーション]]></category> <category><![CDATA[性差]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=166315</guid> <description><![CDATA[良い雰囲気のバーやレストランで、お酒を飲みながらデートを楽しんでいた時は相手のことが魅力的に見えたのに、お酒を飲まずにデートしてみたら急に気持ちが冷めてしまった。 恋愛でみられるこのようなシチュエーションは、人間に限った話ではないかもしれません。 アメリカにあるスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)のアリソン氏ら(Allison M. J. Anacker)の研究では、一夫一妻制で知られているプレーリーハタネズミにアルコールを飲ませると、メスのオスへの嗜好性が高まることが示されています。 このことは、アルコールがつがい形成に影響を及ぼす可能性があることを示しています。 本結果は、2014年4月に『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されています。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>良い雰囲気のバーやレストランで、<strong>お酒を飲みながらデートを楽しんでいた時は相手のことが魅力的に見えた</strong>のに、<strong>お酒を飲まずにデートしてみたら急に気持ちが冷めてしまった</strong>。</p> <p>恋愛でみられるこのようなシチュエーションは、人間に限った話ではないかもしれません。</p> <p>アメリカにあるスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)のアリソン氏ら(Allison M. J. Anacker)の研究では、一夫一妻制で知られている<strong>プレーリーハタネズミにアルコールを飲ませると、メスのオスへの嗜好性が高まる</strong>ことが示されています。</p> <p>このことは、アルコールがつがい形成に影響を及ぼす可能性があることを示しています。</p> <p>本結果は、2014年4月に『<a href="https://doi.org/10.1073/pnas.1320879111" target="_blank" rel="noopener">Proceedings of the National Academy of Sciences</a>』に掲載されています。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">お酒とコミュニケーション</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">アルコールを摂取すると、メスは惚れっぽくなり、オスは冷める</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%81%8A%E9%85%92%E3%81%A8%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3"></span>お酒とコミュニケーション<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175151" aria-describedby="caption-attachment-175151" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/73139a4d8d4fc5dbcc3be6e5d1318dd6.jpg" data-wpel-link="internal"><img class="size-full wp-image-175151" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/73139a4d8d4fc5dbcc3be6e5d1318dd6.jpg" alt="" width="600" height="400" /></a><figcaption id="caption-attachment-175151" class="wp-caption-text">Credit:canva</figcaption></figure> <p>SNSや出会い系アプリの普及に伴って、初対面の人と1対1で飲みに行く機会が一般的になっています。</p> <p>初対面のデートでは、男性、女性共にデート先にお酒を飲む場を選ぶことが多いようです。</p> <p>初対面の人と会う時に、緊張を和らげたい、場を和ませたいという思いから、お酒の力に頼る人も多いのではないでしょうか。</p> <p>お酒に含まれるアルコールは、<strong>適量であれば気持ちをリラックスさせたり、逆に高揚させることで、コミュニケーションを円滑にする</strong>効果があります。</p> <p>多くの場合、初対面のデートで好印象を感じた相手とは、2回目のデートに進みます。</p> <p>一方で、2回目のデートで<strong>お酒を飲まずに会ってみたら、盛り上がっていた気持ちが急に冷めてしまう、</strong>ということがあります。</p> <p>実際にそのシチュエーションに遭遇しても、相手の何がいけなかったのか言葉で具体的に説明するのは難しいことが多いでしょう。</p> <p>実はその現象には、アルコールが関係しているかもしれません。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E6%91%82%E5%8F%96%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%80%81%E3%83%A1%E3%82%B9%E3%81%AF%E6%83%9A%E3%82%8C%E3%81%A3%E3%81%BD%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%80%81%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%81%AF%E5%86%B7%E3%82%81%E3%82%8B"></span><span><strong>アルコールを摂取すると、メスは惚れっぽくなり、オスは冷める</strong></span><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175157" aria-describedby="caption-attachment-175157" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/68146a8e57d0d70c14ef294814ea1b76.png" data-wpel-link="internal"><img class="size-full wp-image-175157" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/68146a8e57d0d70c14ef294814ea1b76.png" alt="" width="600" height="400" /></a><figcaption id="caption-attachment-175157" class="wp-caption-text">Credit:canva</figcaption></figure> <p>スクリプス研究所のアリソン氏らの研究チームでは、北米原産の毛の長い小型げっ歯類であるプレーリーハタネズミを使って、アルコールがつがい形成に影響を及ぼすのかを検証しました。</p> <p>プレーリーハタネズミは、一夫一妻制のパートナー様式を持つことから、男女の社会的な絆のメカニズムを明らかにするためのモデルとして一般的に使用されています。</p> <p>本研究では、アルコールを10%混ぜた飲み水のある環境で、プレーリーハタネズミのオスとメスを24時間一緒に過ごさせ、つがい形成、交尾、運動、攻撃などの行動に影響があるかを検証しています。</p> <p>その結果、<strong>アルコールを摂取したメスのプレーリーハタネズミは、オスへの嗜好性が増強したのに対し、オスのプレーリーハタネズミではむしろ嗜好性が下がる</strong>ことがわかりました。</p> <p>このことは、<strong>アルコール摂取によりメスは異性のことが魅力的に見え惚れっぽくなるのに対し、オスは逆に冷静になる可能性がある</strong>ことを示唆しています。</p> <p>また、アルコール摂取後の交配行動、運動量、攻撃行動など、その他の行動に変化があるかも検証しましたが、これらに影響はありませんでした。</p> <h3>アルコールはオスでは緊張をほぐす作用がある</h3> <figure id="attachment_175160" aria-describedby="caption-attachment-175160" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/3ceb04c8e06778f5723c5981b3798520.jpg" data-wpel-link="internal"><img class="size-full wp-image-175160" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/3ceb04c8e06778f5723c5981b3798520.jpg" alt="" width="600" height="400" /></a><figcaption id="caption-attachment-175160" class="wp-caption-text">Credit:canva</figcaption></figure> <p>アルコール摂取時のメスとオスのつがい形成行動の違いには、脳のニューロペプチドY(NPY)という神経伝達物質が関与しているようです。</p> <p>NPYは、抗不安薬に似た作用を持つことが知られています。</p> <p>アルコールを摂取したプレーリーハタネズミのオスでは、脳のNPYの量が一時的に増加していることが観察されました。</p> <p>この現象はオスでのみ見られ、メスではみられませんでした。</p> <p>つまり、<strong>適量のアルコール摂取は、男性では緊張をほぐしてコミュニケーションを取りやすくするような効果がある</strong>ことになります。</p> <p>この結果は、デートで相手を冷静に見極めたい場合、女性はアルコールを飲まない方が良い、男性は普段通りの自分を見せたいのであれば、アルコールを飲まない方が良い、といった解釈にもつながるかもしれません。</p> <p>いずれにしても、アルコールの影響には性差があることを理解して、効果的にデートに利用する方がよさそうです。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/166315/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%87%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t111149-629">全ての画像を見る</a></p><p><strong>元論文</strong></p><p>The Prairie Vole (Microtus ochrogaster): An Animal Model for Behavioral Neuroendocrine Research on Pair Bonding<br/>https://doi.org/10.1093/ilar.45.1.35<br/>Drinking alcohol has sex-dependent effects on pair bond formation in prairie voles<br/>https://doi.org/10.1073/pnas.1320879111</p><p><strong>ライター</strong></p><p>高橋 実可子: 大学では農学を専攻し、産業動物の研究をしていました。 現在は医療系の企業でメディカルライターとして働いています。 動物が好きで、猫3匹、小鳥1匹と生活しています。 生き物の身体の仕組み、感情や行動の変化に興味があり、本サイトでは医療と生物の記事を担当します。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/166315/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>0</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">166315</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/73139a4d8d4fc5dbcc3be6e5d1318dd6.jpg" length="48481" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/73139a4d8d4fc5dbcc3be6e5d1318dd6.jpg" width="600" height="400" /> </item> <item> <title>火星に「氷の小惑星」をぶつけるとテラフォーミングできると研究者が発表!</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146#comments</comments> <dc:creator><![CDATA[千野 真吾]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 14:00:05 +0000</pubDate> <category><![CDATA[宇宙]]></category> <category><![CDATA[地球]]></category> <category><![CDATA[小惑星]]></category> <category><![CDATA[火星]]></category> <category><![CDATA[重力]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175146</guid> <description><![CDATA[テラフォーミングとは、地球外の惑星を改造して人類が住める環境にする計画です。 その最有力候補となっている惑星は「火星」ですが、ポーランド科学アカデミー(PAN)のレシェク・チェホフスキ(Leszek Czechowski)博士は、とんでもなく大胆な火星のテラフォーミング方法を提案しています。 それは火星に氷でできた小惑星をぶつけるというものです。 これにより「火星の極端に低い気圧を高めながら、気温を上げ、液体をもたらすことが理論上可能である」といいます。 研究の詳細は2025年3月に開催された第56回月・惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference)で発表されました。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p data-pm-slice="1 1 []">テラフォーミングとは、地球外の惑星を改造して人類が住める環境にする計画です。</p> <p>その最有力候補となっている惑星は<strong>「火星」</strong>ですが、ポーランド科学アカデミー(PAN)のレシェク・チェホフスキ(Leszek Czechowski)博士は、とんでもなく大胆な火星のテラフォーミング方法を提案しています。</p> <p>それは<strong>火星に氷でできた小惑星をぶつける</strong>というものです。</p> <p>これにより<strong>「火星の極端に低い気圧を高めながら、気温を上げ、液体をもたらすことが理論上可能である」</strong>といいます。</p> <p>研究の詳細は2025年3月に開催された第56回月・惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference)で発表されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">火星に「氷の岩」をぶつける? 奇抜に見えて実は合理的</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">氷の小惑星をどこから持ってくるのか?</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E7%81%AB%E6%98%9F%E3%81%AB%E3%80%8C%E6%B0%B7%E3%81%AE%E5%B2%A9%E3%80%8D%E3%82%92%E3%81%B6%E3%81%A4%E3%81%91%E3%82%8B%EF%BC%9F_%E5%A5%87%E6%8A%9C%E3%81%AB%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E5%AE%9F%E3%81%AF%E5%90%88%E7%90%86%E7%9A%84"></span>火星に「氷の岩」をぶつける? 奇抜に見えて実は合理的<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>現在、火星の大気圧は地球の約0.6%(1000分の6)しかないほど薄い状態です。</p> <p>そのため、私たちが生身のままスーツなしで火星の大地に立つと、体内の水分がすぐに沸騰し、爆発してしまいかねません。</p> <p>また火星の気温は平均でも-60℃と低く、川や海のような液体も確認できていません。</p> <p>そこでチェホフスキ博士は、火星の大気圧を人間でも住めるレベルにする方法として、氷の小惑星をぶつけるという方法を提案します。</p> <figure id="attachment_175172" aria-describedby="caption-attachment-175172" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t121252-697" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/bd17c3f3e48965bc32e27647192c34a9-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175172" class="wp-caption-text">Credit: <a href="https://www.canva.com/photos/search/%E7%81%AB%E6%98%9F/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">canva</a></figcaption></figure> <p>今回のチェホフスキ博士の研究では、主に理論モデルとエネルギー計算を用いて、火星の気圧を「最低限、人体が即死しないレベル」まで高めるのに必要な物質量とその搬送手段を試算しました。</p> <p>その結果、<strong>氷の小惑星を火星に数回衝突させることで、気圧上昇と温暖化の両方に効果がある可能性</strong>が見出されました。</p> <p>氷の小惑星を火星にぶつけると、衝突の熱エネルギーによって大量の水蒸気やガスが放出され、大気の形成の一助になると考えられるのです。</p> <p>これは奇抜で無謀な提案に見えますが、火星のような巨大な惑星の大気圧や気温を変える上では、実は合理的な方法なのです。</p> <p>しかし問題は別にあります。</p> <p>それは<strong>氷の小惑星はどこから持ってくるのか</strong>ということです。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E6%B0%B7%E3%81%AE%E5%B0%8F%E6%83%91%E6%98%9F%E3%82%92%E3%81%A9%E3%81%93%E3%81%8B%E3%82%89%E6%8C%81%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F"></span>氷の小惑星をどこから持ってくるのか?<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>チェホフスキ博士が着目しているのが、火星より外側に位置する<strong>カイパーベルト(Kuiper Belt)</strong>です。</p> <p>カイパーベルトには氷を多く含んだ小天体が無数に存在していることがわかっています。</p> <p>しかし問題は、こうした天体をどうやって火星まで運び、安全かつ効果的に衝突させるかという点にあります。</p> <p>カイパーベルトの天体は、太陽に近づきすぎると熱や重力で崩壊する可能性があり、また重力アシストなどで導くと途中で失敗するおそれもあります。</p> <p>そこで博士は、重力ではなく、<strong>核融合炉で駆動するイオンエンジンのような推進装置を作り、それによって氷の小惑星を軌道制御する方法</strong>を提案しています。</p> <p>ただこうしたイオンエンジンの開発は、まだ空想の段階でしかなく、それを実際に開発するには膨大な資源とコストがかかるでしょう。</p> <figure id="attachment_175171" aria-describedby="caption-attachment-175171" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t121152-750" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/b1db86b274c04d261287dbd7056831d7-900x600.png" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175171" class="wp-caption-text">Credit: <a href="https://www.canva.com/photos/search/%E7%81%AB%E6%98%9F/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">canva</a></figcaption></figure> <p>それでも、この研究が重要なのは<strong>「物質が存在する場所」</strong>と<strong>「現実的に使える手段」</strong>の両方を具体的に提示した点にあります。</p> <p>地球外天体の活用というアイデアは、これまでロマンの域を出なかったものの、今回の研究によってエネルギー計算の裏付けが与えられ、「やろうと思えばできる」可能性が初めて現実的に語られるようになりました。</p> <p>これは火星を第二の地球とする夢に一歩近づくための重要な理論的ブレイクスルーといえます。</p> <p>今後は、天体の制御技術や衝突シナリオのシミュレーションが進めば、さらに具体的な工程としての道筋が見えてくることでしょう。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t120840-516">全ての画像を見る</a></p><p><strong>参考文献</strong></p><p>Terraforming Mars Will Require Hitting It With Mulitple Asteroids<br/>https://www.universetoday.com/articles/terraforming-mars-will-require-hitting-it-with-mulitple-asteroids</p><p><strong>元論文</strong></p><p>Energy problems of terraforming Mars(PDF)<br/>https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2025/pdf/1858.pdf</p><p><strong>ライター</strong></p><p>千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175146/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>2</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175146</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/999133623a9110becd721701af888c7b.jpg" length="87106" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/999133623a9110becd721701af888c7b.jpg" width="900" height="600" /> </item> <item> <title>目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230#respond</comments> <dc:creator><![CDATA[川勝康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 13:00:42 +0000</pubDate> <category><![CDATA[健康]]></category> <category><![CDATA[色]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175230</guid> <description><![CDATA[「もし目の色を自由に選べるとしたら——あなたはどの色を選ぶでしょうか?」 そんな問いかけはフィクションの世界だけのものと思われてきました。 しかし今、アメリカを中心に「目の色を永久的に変える」ことが可能とされる新たな手術が急速に注目を集めています。 費用は両目で1万2000ドル(日本円で約160万円)ほどと安くはありませんが、SNSなどでは“まるで生まれつきブルーアイやグリーンアイだったかのような自然な仕上がり”として話題が拡散され、多くの人の関心を集めているのです。 この手術は、角膜に色素を注入する「コスメティック・ケラトピグメンテーション(以下、本手術)」という方法で、一部のクリニックでは既に何百件もの施術実績があると報告されています。 わずか20分程度で完了し、痛みも軽度という点が人気に拍車をかけていますが、多くの眼科専門医が「長期的な安全性は未確認」と警鐘を鳴らしていることも事実…]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>「もし目の色を自由に選べるとしたら——あなたはどの色を選ぶでしょうか?」</p> <p>そんな問いかけはフィクションの世界だけのものと思われてきました。</p> <p>しかし今、アメリカを中心に「目の色を永久的に変える」ことが可能とされる新たな手術が急速に注目を集めています。</p> <p>費用は両目で1万2000ドル(日本円で約160万円)ほどと安くはありませんが、SNSなどでは“まるで生まれつきブルーアイやグリーンアイだったかのような自然な仕上がり”として話題が拡散され、多くの人の関心を集めているのです。</p> <p><strong>この手術は、角膜に色素を注入する「コスメティック・ケラトピグメンテーション(以下、本手術)」という方法で、一部のクリニックでは既に何百件もの施術実績があると報告されています。</strong></p> <p>わずか20分程度で完了し、痛みも軽度という点が人気に拍車をかけていますが、多くの眼科専門医が「長期的な安全性は未確認」と警鐘を鳴らしていることも事実です。</p> <p>2024年には世界的に権威を持つアメリカ眼科学会(AAO)が「重大な合併症や視力障害につながるリスク」を公式に警告し、医療界では賛否を巡る議論が続いています。</p> <p>さらに、この角膜着色手術はLASIK(レーシック)のおよそ2倍の費用がかかるため、経済的な負担も軽視できません。</p> <p>にもかかわらず、SNS上のビフォーアフター映像で“劇的な変化”が拡散され、多くの人々が興味を示しているのです。</p> <p>けれども、美しい瞳は憧れであると同時に、生涯にわたる視力を左右する繊細な器官でもあります。</p> <p>今回は、この角膜着色手術のメカニズムやリスク、さらに今後の展望を既存の医療技術との比較も交えながら掘り下げていきます。</p> <p>果たして“1万2000ドルの手術”は新たな選択肢として確立されるのでしょうか。</p> <p>専門家の警鐘と患者の期待が交錯する最前線をのぞいてみましょう。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">なぜ今、“瞳の色”を変える手術が広がるのか?</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">夢の瞳を手に入れる?注目急上昇の角膜着色手術</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">果たして“瞳の色”は買うべき?</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%BB%8A%E3%80%81%E2%80%9C%E7%9E%B3%E3%81%AE%E8%89%B2%E2%80%9D%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%82%8B%E6%89%8B%E8%A1%93%E3%81%8C%E5%BA%83%E3%81%8C%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F"></span>なぜ今、“瞳の色”を変える手術が広がるのか?<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175231" aria-describedby="caption-attachment-175231" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230/a34101c23e07e1f1bac4c86587cd6696" class="css-attachment-link"><img width="900" height="297" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/a34101c23e07e1f1bac4c86587cd6696-900x297.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中" /></a><figcaption id="caption-attachment-175231" class="wp-caption-text">目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中 / Credit:Boxer Wachler Vision InCredit:</figcaption></figure> <p>瞳の色は生まれつきの個性の中でも特に印象深い要素の一つです。</p> <p>「ブラウンの瞳をブルーに変えたい」「グリーンの瞳に憧れる」という思いを抱いてきた人々は少なくありません。</p> <p>そうしたニーズに応える形で、2000年代には「虹彩インプラント」という方法が海外で一部行われていましたが、眼内に人工の虹彩(カラーディスク)を挿入するため、慢性的な炎症や緑内障、白内障などの重篤な合併症が多発し、医療界では「リスクが高い」との判断から推奨されなくなっています。</p> <p>この反省を踏まえ、安全性と自然な仕上がりを追求する方法として登場したのが、角膜に色素を注入して瞳の色を変える「コスメティック・ケラトピグメンテーション」です。</p> <p><strong>具体的には角膜層にドーナツ状のチャネルを形成し、そこに色素を埋め込むことで“虹彩の上から着色する”というイメージになります。</strong></p> <p>角膜を扱うため侵襲が比較的少なく、施術は20分程度で完了し、痛みが軽度とされるのが特徴です。</p> <p>ヨーロッパの一部クリニックで2010年代に開発され、2019年頃からアメリカで導入が進み、SNSを中心に話題が拡散されました。</p> <p>そして2024年現在、両目で1万2000ドルという高額費用にもかかわらず、この手術を希望する人が急増しています。</p> <p>しかし、角膜に対する操作である以上、視力低下や感染症などの合併症が懸念されるほか、色素の品質や成分が公表されていない事例もあるため、長期的な安全性を危ぶむ専門家も少なくありません。</p> <p>そこで本記事では、角膜着色手術の実態と背景、過去に行われてきた虹彩インプラントとの比較を交えつつ、その利点と懸念点を多角的に検証します。</p> <p>また、実際に手術を受けた患者の体験談や、研究者や医師が指摘するリスクとメリットを整理し、「自分の目」という重要な器官を守るための指針を提供したいと考えています。</p> <p>目は非常にデリケートな器官であり、いったん障害が生じると日常生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。</p> <p>単に「瞳の色を変える」という美容的な狙いであっても、一歩間違えれば生涯にわたる視力障害に直結しかねません。</p> <p>最先端技術として急速に人気が高まる角膜着色手術の実態とリスクを正しく理解し、今後の動向を見極めることは、今まさに多くの人々が求める情報だと言えるでしょう。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E5%A4%A2%E3%81%AE%E7%9E%B3%E3%82%92%E6%89%8B%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%82%8B%EF%BC%9F%E6%B3%A8%E7%9B%AE%E6%80%A5%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%81%AE%E8%A7%92%E8%86%9C%E7%9D%80%E8%89%B2%E6%89%8B%E8%A1%93"></span>夢の瞳を手に入れる?注目急上昇の角膜着色手術<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175234" aria-describedby="caption-attachment-175234" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230/1d2b20c32cc3dcce8ca3735174b5210a" class="css-attachment-link"><img width="900" height="301" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/1d2b20c32cc3dcce8ca3735174b5210a-900x301.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中" /></a><figcaption id="caption-attachment-175234" class="wp-caption-text">目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中 / Credit:Boxer Wachler Vision InCredit:</figcaption></figure> <p>角膜着色手術の有効性や安全性を示すため、いくつかの研究や臨床調査が行われています。</p> <p>中でも2018年に欧州の研究者グループが公表した調査は、合計204名の患者を4か月から12年超にわたって追跡したことで注目を集めました。</p> <p>調査によると、<strong>29名(全体の約14%)に何らかの合併症が確認</strong>され、そのうち49%が光に対する過敏症(強いまぶしさ)を訴え、19%で色素の退色・変色が早期に見られました。</p> <p><strong>さらに4%で視野の一部に違和感を訴え、2%の患者がMRI検査時に金属成分の影響と思われる痛みを経験しています。</strong></p> <p>一方、同じグループの一部が参加した2021年の追跡調査では、対象者こそ40名と限られていますが、合併症の発生率がやや低下したと報告されています。</p> <p>これは施術技術や色素の改良が進んだ結果とみられますが、完全にリスクがなくなったわけではありません。</p> <p>実際、2020年代に入ってから角膜の形状が変化して視力障害を引き起こす「角膜拡張症(エクタジア)」を発症した症例が少なくとも5例報告されており、角膜に負荷をかけるこの手法独自のリスクが改めて指摘されています。</p> <p>こうした結果を受け、積極的に施術を行う医師たちは「合併症はごく稀で、適切な検査と患者選定を行えば安全性は高い」と反論しています。</p> <p>特に、ロサンゼルスで数百件の手術を行っている医師や年間400件近い施術を行うとされる医師は、独自の高品質な色素を使用し、優れた術式を採用することで合併症を抑えられると主張しています。</p> <p>ただし、色素の製造元や具体的な成分を公表していないケースが多く、「MRI検査時のトラブルを本当に回避できるのか」といった疑問も残るのが現状です。</p> <p>また、アメリカ眼科学会(AAO)は2024年に「角膜着色手術はFDA(米国食品医薬品局)の承認を得ていない実験段階の医療行為であり、感染症や視力障害などの深刻なリスクがある」と再び警告を発しました。</p> <p>これに反対する医師グループが「最新の研究成果を反映しておらず不適切だ」と撤回を求めていますが、AAO側は立場を変えていません。</p> <p><strong>多くの専門家は「10年から20年、あるいはそれ以上追跡した大規模データがなければ、安全性を断言するのは難しい」との見解を示しています。</strong></p> <p>医療目的で行われてきた角膜着色手術(先天的な虹彩欠損や外傷で生じた欠損補填など)も、何十年もの実績があるとはいえ大規模データは十分に揃っていません。</p> <p>さらに、美容目的の場合、使用する色素や施術プロトコルが異なる場合があり、同列に評価できない点も多いとされています。</p> <p>手術の費用や研究費用の問題、患者が地理的・時間的に長期追跡を受けにくい現状などが障壁となっているため、合併症や効果を大人数・長期間で検証するのは容易ではないのです。</p> <p>こうしてみると、角膜着色手術はまだ道半ばと言えます。</p> <p><strong>比較的良好な経過をたどる患者が多いというデータはあるものの、角膜に根本的な操作を施す以上、視力障害や金属成分由来の合併症など、未知のリスクを完全に排除できていないのが現状です。</strong></p> <p>将来的にはより多くの症例と長期観察のデータが積み重なることで、真の安全性やリスクプロファイルが明らかになるかもしれません。</p> <p>しかし、現段階では「未知の要素を多分にはらむ新技術」であることを忘れてはならないでしょう。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E6%9E%9C%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%A6%E2%80%9C%E7%9E%B3%E3%81%AE%E8%89%B2%E2%80%9D%E3%81%AF%E8%B2%B7%E3%81%86%E3%81%B9%E3%81%8D%EF%BC%9F"></span>果たして“瞳の色”は買うべき?<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175235" aria-describedby="caption-attachment-175235" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t211736-883" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/314e5f2f1058149046da135c13e53c83-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中" /></a><figcaption id="caption-attachment-175235" class="wp-caption-text">目の色を変える1万2000ドルの手術が人気急上昇中 / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>このように、角膜着色手術は「目の色を永久的に変える」という長年のニーズに応える最先端の美容医療として急速に広がりつつあります。</p> <p>SNSなどで拡散されるビフォーアフターの映像が「本来の虹彩色のような自然な仕上がり」と称賛され、コンタクトレンズ不要になる手軽さも魅力の一つです。</p> <p>しかし、安全性に関する十分な長期データが揃っていないまま人気が高まっている状況に、多くの医師が懸念を示しています。</p> <p>まず最大の課題は、長期的な視力への影響や角膜の健康リスクが不明瞭な点です。</p> <p>LASIKと同様、角膜に直接施術を行う以上、エクタジアや感染症、金属成分によるトラブルなどの合併症リスクは通常のコンタクトレンズ使用とは別次元であることを理解しなければなりません。</p> <p><strong>また、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ておらず、医師の裁量による未承認医療行為として行われているため、万が一合併症が起きた際に患者が十分な救済を受けられるかは未知数です。</strong></p> <p>経済的な要因も大きなハードルになります。</p> <p>両目で1万2000ドルもの高額費用に加え、トラブルが起きたときの再手術や治療費がさらにかかる可能性もあるのです。</p> <p>決して安価とは言えないため、慎重な判断が求められます。</p> <p>その一方で、研究が進むにつれ、施術手技や色素の改良が行われれば合併症率をさらに下げられる可能性もあります。</p> <p>既に医療目的で実施されてきた角膜着色手術に関するデータはある程度蓄積されており、その知見が美容目的の技術にも応用されるかもしれません。</p> <p>ただし、医療目的と美容目的とでは適応や手術手順が大きく異なるケースもあるため、やはり長期的・大規模な研究が不可欠です。</p> <p>最終的に、この手術を受けるかどうかは個人の判断に委ねられます。</p> <p>特に、長年カラーコンタクトレンズで悩みを抱えてきた人などにとっては大きな魅力と感じられるでしょう。</p> <p>しかし、角膜や視力に影響が出たときに取り返しのつかない事態になり得ること、また日本を含め世界的に規制やガイドラインがまだ整備されていない現状を踏まえると、事前の情報収集や専門医への相談が不可欠です。</p> <p>もしわずかでも不安があるならば、カラーコンタクトレンズのように取り外しができる代替手段も依然として有力な選択肢です。</p> <p>高度な医療技術は私たちに新しい美の可能性をもたらす一方、未知の副作用や長期リスクと向き合う覚悟を求めるものでもあります。</p> <p>角膜着色手術は、その恩恵とリスクを天秤にかけ、慎重に選択することが求められる「最新の美容医療」であると言えるでしょう。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t211602-225">全ての画像を見る</a></p><p><strong>ライター</strong></p><p>川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175230/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>0</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175230</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/5ce9d8cfc650a833a9633862c2c2765b.jpg" length="206096" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/5ce9d8cfc650a833a9633862c2c2765b.jpg" width="1063" height="709" /> </item> <item> <title>米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222#comments</comments> <dc:creator><![CDATA[川勝康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 12:00:24 +0000</pubDate> <category><![CDATA[社会]]></category> <category><![CDATA[アメリカ]]></category> <category><![CDATA[言語]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175222</guid> <description><![CDATA[米国議会では、かつて「事実やデータ」に基づく議論が重視されていた――少なくとも、多くの人はそう信じてきました。 しかし最新の研究によると、議会での演説は時代を経るごとに直観や感情による訴えへとシフトしている可能性が示唆されています。 ドイツ・コンスタンツ大学で行われた研究によって、1879年から2022年にかけての議会演説約800万件を計算機的に分析し、証拠(エビデンス)に基づく言葉づかいと、感覚や信念に重きを置く言葉づかいとを定量化しました。 その結果、1970年代半ばをピークに「証拠重視」の傾向が低下し続けていることが判明したのです。  では、証拠よりも直観を軸にした議会運営が広がると何が起こるのでしょうか。 今回は、この論文が提示したデータ分析とその背景、そして議会活動や社会への影響などについて科学的視点で迫ります。 研究内容の詳細は『Nature Human Behaviour』…]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>米国議会では、かつて「事実やデータ」に基づく議論が重視されていた――少なくとも、多くの人はそう信じてきました。</p> <p>しかし最新の研究によると、議会での演説は時代を経るごとに直観や感情による訴えへとシフトしている可能性が示唆されています。</p> <p>ドイツ・コンスタンツ大学で行われた研究によって、1879年から2022年にかけての議会演説約800万件を計算機的に分析し、証拠(エビデンス)に基づく言葉づかいと、感覚や信念に重きを置く言葉づかいとを定量化しました。</p> <p><strong>その結果、1970年代半ばをピークに「証拠重視」の傾向が低下し続けていることが判明したのです。 </strong></p> <p>では、証拠よりも直観を軸にした議会運営が広がると何が起こるのでしょうか。</p> <p>今回は、この論文が提示したデータ分析とその背景、そして議会活動や社会への影響などについて科学的視点で迫ります。</p> <p>研究内容の詳細は『<a href="https://doi.org/10.1038/s41562-025-02136-2" target="_blank" rel="noopener">Nature Human Behaviour</a>』にて発表されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">民主主義を揺るがす“真実”への向き合い方</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">証拠の時代は終わったのか――1970年代から始まったエビデンスの衰退</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">証拠なき政治の代償――合意形成と社会格差への影響</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%82%92%E6%8F%BA%E3%82%8B%E3%81%8C%E3%81%99%E2%80%9C%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E2%80%9D%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%90%91%E3%81%8D%E5%90%88%E3%81%84%E6%96%B9"></span><strong>民主主義を揺るがす“真実”への向き合い方</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175225" aria-describedby="caption-attachment-175225" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t181039-970" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/081ac529860b40ea9d206fe1113078d1-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175225" class="wp-caption-text">米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>人々が議論を交わす際、その根底にある「どのように真実を捉えるか」という姿勢は、大げさではなく議論の方向や着地点を左右すると言われています。</p> <p>たとえば、「こちらのデータが証拠として示しています」と論じる人と、「自分の感覚や信念を拠りどころにしています」と主張する人では、あたかも航海をする際に海図を読みこなして進む船と、勘と経験だけで目的地を探す船ほどの違いがあるかもしれません。</p> <p>前者は、客観的な座標を頼りに計画的に進む安心感がある一方、後者は柔軟な舵取りが可能である反面、予期せぬリスクに直面しやすい――こうした対比が、社会の中で意見を戦わせる際にも表れるというわけです。</p> <p>民主主義の世界では、これら二つのアプローチを適度に組み合わせることが理想とされています。</p> <p>事実やデータに基づいた“根拠”を明確にしつつ、同時に感情や価値観にも配慮することで、多様な視点が融合し、より納得性の高い結論や政策が生まれると期待されているからです。</p> <p>しかし近年、“truth decay”(真実の崩壊)と呼ばれる現象が各国で指摘され、ファクトとフィクションの境界が曖昧になったり、情報の信憑性そのものが疑われたりする例が増えています。</p> <p>これは社会の分断を深め、政府やメディアなどの機関への不信を招くとされ、各界の専門家から大きな警鐘が鳴らされています。</p> <p>こうした複雑な時代背景のもと、研究者たちは「それならば、政治家の言葉を大規模に分析すれば、今どんなふうに“真実”に向き合っているのかが見えてくるのではないか」と考えました。</p> <p>政治や政策を語る場として、議会演説ほど公式かつ公に記録されるものはありません。</p> <p>そこで演説の中に注目するキーワード群――“証拠”を示す単語(fact, data, evidenceなど)と、“直感や感情”を示す単語(believe, guess, feelingなど)――を探ることで、政治家たちが過去から現在に至るまで、どれほど客観的データを重んじてきたのか、あるいは自身の感覚や価値観を優先してきたのかを浮き彫りにできると期待されたのです。</p> <p>実際、この種の問題意識自体は以前から指摘されてきました。</p> <p>たとえば「アメリカの議会は昔より感情的になったのではないか」「証拠を見ずに党派的な主張ばかりに終始しているのではないか」といった声は、メディアや市民の間でもしばしば聞かれます。</p> <p>しかし、こうした議論を学術的に証明するには、長期にわたる大量の議事録や演説記録を精密に調べる必要があり、その作業はあまりにも膨大でした。</p> <p>そのため、部分的な事例研究や特定の時期に限られた分析はあっても、140年以上の歴史を通して演説の言葉づかいを比較するような包括的調査はほとんど実施されてこなかったのです。</p> <p>もっとも、“証拠”と“直感”を完全に別物として切り分けることはできません。</p> <p>真実を見極めるには、観察や測定といった客観的プロセスを踏む必要がありますし、一方で、それをどう評価し、どう受け止めるかには人間の感覚や価値観が不可欠だからです。</p> <p>いわば、“証拠”から“直感”へ続く道は一つのグラデーションであり、どこで線を引くかはそう簡単ではありません。</p> <p>それでも、もしあまりにも“直感”に偏りすぎると、データに基づく検証プロセスが抜け落ちてしまい、異なる立場や意見との橋渡しが難しくなるおそれがあります。</p> <p>逆に“証拠”を過度に崇拝しすぎれば、人間的な感情や倫理観の問題を見落としてしまうかもしれません。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E8%A8%BC%E6%8B%A0%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AF%E7%B5%82%E3%82%8F%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%E2%80%95%E2%80%951970%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E3%81%8B%E3%82%89%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%82%A8%E3%83%93%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%A1%B0%E9%80%80"></span>証拠の時代は終わったのか――<strong>1970</strong><strong>年代から始まったエビデンスの衰退</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175223" aria-describedby="caption-attachment-175223" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222/efd86b3fa66af141eacec48eaabe70cd" class="css-attachment-link"><img width="900" height="275" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/efd86b3fa66af141eacec48eaabe70cd-900x275.png" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175223" class="wp-caption-text">米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている / 1880年代から証拠に基づく演説の多さを継続的に調べたところ1970年代以降、共和党でも民主党でも持続的に低下していることがわかりました/Credit:<a href="https://doi.org/10.1038/s41562-025-02136-2" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Segun T. Aroyehun et al . Nature Human Behaviour (2025)</a></figcaption></figure> <p>そこで今回研究者たちは、1879年から2022年までの米国議会演説――実におよそ800万件にも及ぶ発言録――を対象に、大規模な計算機テキスト分析を行うことにしました。</p> <p>具体的には、政治家の演説に含まれる単語の使用傾向を、時代ごと・党派ごとに解析し、「証拠重視」と「直感重視」の両面がどのように変遷してきたのか、さらにそれが社会の動向(たとえば二極化の進行や所得格差の拡大など)とどの程度つながりを持つのかを探る、という壮大な試みです。</p> <p>こうした調査は、歴史的なテキスト資料を扱ううえでも最先端のデジタル技術を駆使する必要があり、研究者たちの挑戦は大きな注目を集めています。</p> <p><strong>研究チームはまず、1879年から2022年までの米国議会演説を収集し、その総数はおよそ800万件にも及びました。 </strong></p> <p>これら膨大な議事録をまとめ上げ、それぞれの演説が「証拠(エビデンス)」重視なのか、それとも「直感・感情」重視なのかを数値化するために高度な計算機テキスト分析を導入した点が、この研究の最大の特徴といえます。</p> <p>具体的には、あらかじめ作成した二つの“辞書”――たとえば“fact”や“data”、“evidence”といったエビデンスを示す単語群と、“believe”や“guess”、“feeling”などの直感・感情を示す単語群――をもとに、演説の中の言葉づかいをスコア化しました。</p> <p>その際、単語の単純な頻度だけでなく、演説全体の文脈をとらえる自然言語処理(NLP)の技術が使われており、いわば「議員がどれほどデータに依拠した議論をしているか、あるいはどれほど主観的な信条に頼っているか」をマッピングするように数値で測定できる仕組みが作られたのです。</p> <p>こうして算出された“EMI(Evidence-Minus-Intuition)スコア”を年ごと・会期ごとに集計してみると、いくつか興味深い事実が浮き彫りになりました。</p> <p>EMIスコア(Evidence-Minus-Intuitionスコア)は、その名のとおり「どれだけ“証拠(Evidence)”ベースの言語が使われているか」と「どれだけ“直感(Intuition)”ベースの言語が使われているか」の差を測る指標です。</p> <p>研究チームは、演説文中に現れる“証拠を表す単語”と“直感を表す単語”をそれぞれ数値化し、その差を取ることでEMIを求めました。</p> <p>「演説」と「証拠」の類似度を A とし、「演説」と「直感」の類似度を B としたときに「 EMI = A − B」 となります。</p> <p>つまり証拠に基づいた演説ほどEMIがプラスの値になり、証拠を無視した直感的な演説ほどEMIがマイナスになるわけです。</p> <p><strong>すると1970年代半ば(1975〜1976年の会期)をピークとしてエビデンス重視の度合いが一貫して下落し続け、現代では史上最低水準にあることがわかりました。 </strong></p> <p>過去の数字をみると、19世紀末(1899〜1901年)や1930年代の大恐慌期(1933〜1935年)にも一時的にエビデンス重視が低下していた形跡はありますが、いずれも短期的な谷にとどまり、社会情勢が落ち着くと再び持ち直していました。</p> <p><strong>一方、1970年代以降の低下は途切れず継続しており、1975年のピーク以降は毎会期ごとに(ほぼ2年ごとに)平均してEMIが0.032ポイントずつ下がっているとされています。 </strong></p> <p>また党派別の状況をみても同様に、どちらの政党も1970年代半ばを境に証拠重視から直感重視へじわじわとシフトしていることが確認されました。</p> <p>特筆すべきはごく最近(2021〜2022年会期)の共和党の急激な下落で、中央値のEMIスコアが−0.753まで落ち込んでおり、同時期の民主党が−0.435であることと比較しても著しく低い数値でした。</p> <p>EMIの最大振れ幅が理論上−2から+2であることを考えると、この下落幅は非常に大きな変化と言えるでしょう。</p> <p>「議会全体でエビデンスの弱い演説が目立っている」という深刻な状況とも言えます。</p> <p>さらに、研究者たちは「こうした演説言語の変化が社会や政治の実質的な動向とどう結びつくのか」を探るため、議会の生産性(二大政党が合意に至って可決する法案の数や重要度)、党派間の二極化、そして所得格差の推移なども併せて分析しました。</p> <p><strong>その結果、エビデンス重視の度合いが低下している会期は、議会の合意形成が滞って立法活動が減速し、さらに次の会期以降に所得の格差が広がっている時期と重なりがあることが示唆されたのです。 </strong></p> <p><strong>実際に、EMIの数値が低いほど所得格差を示す指標が高くなるという負の相関関係(相関係数−0.948)が観察された点は、政治経済学的にも大きなインパクトを持つ発見でしょう。 </strong></p> <p>(※相関係数が−1に近いほど強い負の相関を意味します。相関係数−0.948ということは証拠に基づかない演説が行われる地域では格差が拡大する傾向が非常に強いのです。)</p> <p>こうして、広大なスケールのテキストデータを対象にした先進的な分析は、単に「議会は昔のほうがデータ重視だったかもしれない」という直感を裏付けるだけでなく、「証拠に基づく議論が減ると、どのような社会的・政治的リスクが高まるのか」という具体的なヒントを与えてくれました。</p> <p>研究チームによれば、エビデンスへの依拠が薄れると、党派対立を埋める共通基盤が弱まり、結果として合意形成が難しくなって立法も滞る可能性があるのではないか、とのことです。</p> <p>所得の偏在や議会の生産性といった社会課題が、議員たちの「言葉づかい」と意外なほど密接につながっているかもしれない――この発見は、まさにデータが示す大きな警鐘と言えるでしょう。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E8%A8%BC%E6%8B%A0%E3%81%AA%E3%81%8D%E6%94%BF%E6%B2%BB%E3%81%AE%E4%BB%A3%E5%84%9F%E2%80%95%E2%80%95%E5%90%88%E6%84%8F%E5%BD%A2%E6%88%90%E3%81%A8%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E6%A0%BC%E5%B7%AE%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF"></span><strong>証拠なき政治の代償――合意形成と社会格差への影響</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175226" aria-describedby="caption-attachment-175226" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t181122-142" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/138e53e42a172ffc167530b5619f1d74-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175226" class="wp-caption-text">米国議会の演説は時とともに証拠に基づかなくなってきている / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>エビデンス重視の言葉づかいが長期的に衰退してきたという事実は、一見「議会が単に昔と比べて変わった」という話にとどまりません。</p> <p>合意形成が難しいほどに党派間の対立が深まり、立法の生産性が低下する可能性があるからです。</p> <p>実際に、今回の研究ではエビデンス中心の議論が減少している時期ほど重要法案の成立数が伸び悩み、さらに社会全体の格差が広がりやすいことが示唆されています。</p> <p>なぜ証拠に基づく言語の衰退が政治や社会の停滞と結びつくのか。</p> <p><strong>背景には、エビデンスを共有する姿勢が薄れることで「客観的な材料」を頼りに妥協点を探る仕組みが弱まり、感情や価値観の衝突だけが先立ってしまう構図があると考えられます。 </strong></p> <p>多くの複雑な課題――格差、環境、医療、教育――を解決するには、膨大なデータや専門家の知見を踏まえる必要がありますが、その手間をかけずに自陣の主張だけを強調すると、政策の落としどころを見いだせず対立が激化しやすくなるのです。</p> <p>さらに、議会ルールの変遷や、党首やリーダー陣の発言権コントロール、メディア環境の変化なども、直感重視の言葉づかいを増幅させる要因として指摘されています。</p> <p><strong>テレビやSNSで拡散される映像や言葉が、“感情に訴える”メッセージほど短時間で注目を集めやすいという点は、多くの政治家にとって魅力的に映るかもしれません。 </strong></p> <p>その一方で、緻密なデータ解析や根拠の丁寧な説明は、どうしても地味になりがちです。</p> <p>こうした情報環境の変化が、エビデンスを重視した議論を後退させている可能性も否めません。</p> <p><strong>なによりエビデンスを無視した感情的な議論が行われると、問題の本質を見抜けなくなり、結果として適切な格差是正の手段が取れなくなる可能性があるのです。</strong></p> <p>ただし、エビデンスがすべてを解決するわけではないのも事実です。</p> <p>政治的な討論の中には、国民の価値観や道徳観、歴史的な背景など、数字やデータだけでは測りきれない大切な要素が潜んでいます。</p> <p>時には証拠よりも政治家の直感と信念に従って政策を行うことが、経済的成功をもたらす場合もあるでしょう。</p> <p>問題は“直感”と“エビデンス”どちらか一方に偏りすぎることで、特に直感・感情だけに頼ると、対立する意見の妥協点を見つける共通の土台がなくなりかねません。</p> <p>それでも、証拠に基づく議論が持つ“橋渡し”の機能が失われかけているという警鐘は、受け止める必要があるでしょう。</p> <p>高度に専門化・複雑化した時代だからこそ、確かな情報や根拠を共有する仕組みは、議会内の合意形成や政策の質を左右する重要なカギとなりえます。</p> <p>今後、議会演説の言葉づかいをさらに多面的に分析したり、各種政策の成果や住民の意識との関係を検証したりする研究が増えれば、エビデンス重視の文化が社会全体に及ぼす効果をより正確に見極められるはずです。</p> <p>統計解析と政治学、社会学、メディア論などが連携することで、政治がいま抱える課題とその処方箋が、いっそう具体的に描かれることが期待されます。</p> <p>証拠と直感の両輪をうまく使うバランスが、民主主義における合意形成の新たなヒントになるかもしれません。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t180902-706">全ての画像を見る</a></p><p><strong>元論文</strong></p><p>Computational analysis of US congressional speeches reveals a shift from evidence to intuition<br/>https://doi.org/10.1038/s41562-025-02136-2</p><p><strong>ライター</strong></p><p>川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175222/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>2</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175222</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/fac24454dc3376ea37844752df8806cc.jpg" length="102368" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/fac24454dc3376ea37844752df8806cc.jpg" width="1063" height="709" /> </item> <item> <title>”ある音”を1分間聞くと「乗り物酔い」を軽減できると判明!【週末のおでかけが音で快適に】</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149#comments</comments> <dc:creator><![CDATA[大倉康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 11:00:55 +0000</pubDate> <category><![CDATA[健康]]></category> <category><![CDATA[マウス]]></category> <category><![CDATA[乗り物]]></category> <category><![CDATA[名古屋大学]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175149</guid> <description><![CDATA[週末になると「どこに出かけようか」と心が躍ります。 ドライブで自然の中に出かけたり、少し遠出して温泉に行ったりと、楽しみは尽きません。 でも、ふと頭をよぎるのが「車に酔って、半日寝込むことになったらどうしよう…」という不安です。 助手席や後部座席に乗ってスマホを眺めているうちに気分が悪くなり、せっかくの予定が台無しになったという経験、あなたにもあるのではないでしょうか? そんな悩みを解決するかもしれない、驚きの研究成果が名古屋大学から発表されました。 なんと「たった1分間、特定の音を聞くだけで、乗り物酔いを軽減できる可能性がある」というのです。 この研究成果は、2025年3月25日付の『Environmental Health and Preventive Medicine』誌にて発表されました。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p data-pm-slice="1 1 []">週末になると「どこに出かけようか」と心が躍ります。</p> <p>ドライブで自然の中に出かけたり、少し遠出して温泉に行ったりと、楽しみは尽きません。</p> <p><strong>でも、ふと頭をよぎるのが「車に酔って、半日寝込むことになったらどうしよう…」という不安です。</strong></p> <p>助手席や後部座席に乗ってスマホを眺めているうちに気分が悪くなり、せっかくの予定が台無しになったという経験、あなたにもあるのではないでしょうか?</p> <p>そんな悩みを解決するかもしれない、驚きの研究成果が名古屋大学から発表されました。</p> <p>なんと「<strong>たった1分間、特定の音を聞くだけで、乗り物酔いを軽減できる可能性がある</strong>」というのです。</p> <p>この研究成果は、2025年3月25日付の『<a href="https://doi.org/10.1265/ehpm.24-00247" target="_blank" rel="noopener">Environmental Health and Preventive Medicine</a>』誌にて発表されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">乗り物酔の原因は?音で改善できるかもしれない</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">1分間の音が車酔いを和らげると判明!</li></ul></div> <h2 data-pm-slice="1 1 []"><span class="ez-toc-section" id="%E4%B9%97%E3%82%8A%E7%89%A9%E9%85%94%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%AF%EF%BC%9F%E9%9F%B3%E3%81%A7%E6%94%B9%E5%96%84%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%8B%E3%82%82%E3%81%97%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%84"></span>乗り物酔の原因は?音で改善できるかもしれない<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>動揺病、いわゆる「<strong>乗り物酔い</strong>」は、誰でもなりうる身近な不調の一つです。</p> <p>主な症状は、<strong>吐き気、冷や汗、めまい、倦怠感</strong>などで、原因は耳の奥にある「前庭器官(ぜんていきかん)」の混乱です。</p> <figure id="attachment_175154" aria-describedby="caption-attachment-175154" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149/gray921_ja" class="css-attachment-link"><img width="600" height="469" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/Gray921_ja.png" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175154" class="wp-caption-text">ヒトの内耳(中央部が前庭) / Credit:<a href="https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Gray921_ja.png" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Wikipedia Commons</a></figcaption></figure> <p>特に、内耳にある卵形嚢(らんけいのう)や球形嚢(きゅうけいのう)と呼ばれる「耳石器(じせきき)」は、重力や加速度を感知するセンサーのような役割を果たしています。</p> <p>車に揺られているとき、視覚情報とこの前庭器官の感覚がズレることで、脳が混乱し、「酔い」として現れるのです。</p> <p>そして、この酔いを防ぐのに音が役立つかもしれません。</p> <p><strong>これまでの研究では、卵形嚢を音で刺激することで、バランス感覚の維持を助ける可能性があると分かっていました。</strong></p> <p>今回の名古屋大学の研究は、この理論をさらに発展させたものです。</p> <p>研究チームは、摘出したマウスの卵形嚢を異なる周波数と音量で刺激し、どのように活性化するか観察しました。</p> <figure id="attachment_175155" aria-describedby="caption-attachment-175155" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a-900-x-600-px-2025-04-11t110909-998" class="css-attachment-link"><img width="876" height="584" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/52b4eee4bcb3a313a2c60489ef4678d4.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175155" class="wp-caption-text">音で乗り物酔いを軽減できるかもしれない / Credit:<a href="https://www.canva.com/photos/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Canva</a></figcaption></figure> <p>その結果、<strong>周波数100Hz、音量65.9dBaの純音(1つの周波数で構成されている単純な音)が最も効果的であり、前庭機能を有意に高める</strong>ことがわかりました。</p> <p>研究チームはこの音を『sound spice(サウンドスパイス)』と呼んでいます。</p> <p>次に彼らは、生きたマウスに100Hzの音を5分間聞かせました。</p> <p>その後、縦揺れと横揺れを与えて「乗り物酔い」を誘発し、小さな平均台を歩かせてテストしました。</p> <p><strong>その結果、音を聞かせなかった対照群と比べて、マウスは2時間以上にわたり、乗り物酔いを軽減できていました。</strong></p> <p>マウスの次は、人間です。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="1%E5%88%86%E9%96%93%E3%81%AE%E9%9F%B3%E3%81%8C%E8%BB%8A%E9%85%94%E3%81%84%E3%82%92%E5%92%8C%E3%82%89%E3%81%92%E3%82%8B%E3%81%A8%E5%88%A4%E6%98%8E%EF%BC%81"></span>1分間の音が車酔いを和らげると判明!<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>人間の被験者には、事前に1分間の『サウンドスパイス』を聞いてもらいました。</p> <p>その後、ブランコやドライビングシミュレーター、実車での走行により、長時間の揺れを体験してもらい、乗り物酔いを誘発しました。</p> <p>評価には、姿勢記録、心電図、乗り物酔いの質問票などが用いられました。</p> <figure id="attachment_175156" aria-describedby="caption-attachment-175156" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149/kagawa_image-thumb-980xauto-14598" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/Kagawa_image-thumb-980xauto-14598-900x506.png" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175156" class="wp-caption-text">ドライビングシミュレーターを用いた乗り物酔いの誘発 / Credit:<a href="https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result-en/2025/04/20250408-01.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external"> Masashi Kato(Nagoya University)_A unique sound alleviates motion sickness(2025)</a></figcaption></figure> <p>その結果、<strong>事前にサウンドスパイスを聞いた人は、対照群と比べて、乗り物酔いにみられる「ふらつき」「吐き気」などの症状が軽減される</strong>ことを発見しました。</p> <p>質問票でも「気持ち悪い」「だるい」といった項目のスコアが減少しており、被験者自身も効果を実感していました。</p> <p>つまり、<strong>事前にたった1分間、100Hzの純音を聞くだけで、乗り物酔いが改善された</strong>のです。</p> <p>研究チームは、「独自の音(サウンドスパイス)に短期的にさらされても健康リスクは最小限」だと述べています。</p> <p>また「刺激レベルは騒音の安全基準をはるかに下回っているため、適切に使用すれば安全だと考えられる」と続けています。</p> <p>今後、イヤホンや車のスピーカー、さらにはスマートフォンアプリへの応用が期待されます。</p> <p>たった1分の音が、乗り物酔いで悩んでいた人を優しくサポートするかもしれません。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%87%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t110842-601">全ての画像を見る</a></p><p><strong>参考文献</strong></p><p>A unique sound alleviates motion sickness<br/>https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result-en/2025/04/20250408-01.html</p><p>Just a minute-full of &#8220;sound spice&#8221; may keep the motion sickness away<br/>https://newatlas.com/medical-tech/sound-spice-tone-motion-sickness/</p><p><strong>元論文</strong></p><p>Just 1-min exposure to a pure tone at 100 Hz with daily exposable sound pressure levels may improve motion sickness<br/>https://doi.org/10.1265/ehpm.24-00247</p><p><strong>ライター</strong></p><p>大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175149/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>4</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175149</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/52b4eee4bcb3a313a2c60489ef4678d4.jpg" length="86565" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/52b4eee4bcb3a313a2c60489ef4678d4.jpg" width="876" height="584" /> </item> <item> <title>ほぼ完全に機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212#respond</comments> <dc:creator><![CDATA[川勝康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 09:00:44 +0000</pubDate> <category><![CDATA[AI・人工知能]]></category> <category><![CDATA[AI]]></category> <category><![CDATA[ロボット]]></category> <category><![CDATA[卵子]]></category> <category><![CDATA[精子]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175212</guid> <description><![CDATA[アメリカのコンシーバブル・ライフ・サイエンシーズ研究機関で行われた研究によって、体外受精の一工程である顕微授精がこれまでの常識を覆すかもしれない、驚くべき技術革新を迎えました。  普通ならば顕微鏡を覗き込んで人の手でこなさねばならない細かい作業を、ロボットと人工知能が一括して担当し、しかも3700キロ離れた遠隔地からの指令で操作を完了させたというのです。  自動化された機械によって新たな生命を生み出す環境が整えられつつあるのです。 こうした画期的な技術は、生殖医療の常識を変え、世界中の不妊治療の現場に新しい風を吹き込むと期待されていますが、果たしてこれは本当に“次の当たり前”となっていくのでしょうか。 研究内容の詳細は『RBMO』にて発表されました。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>アメリカのコンシーバブル・ライフ・サイエンシーズ研究機関で行われた研究によって、<strong>体外受精の一工程である顕微授精がこれまでの常識を覆すかもしれない、驚くべき技術革新を迎えました。 </strong></p> <p>普通ならば顕微鏡を覗き込んで人の手でこなさねばならない細かい作業を、<strong>ロボットと人工知能が一括して担当し、しかも3700キロ離れた遠隔地からの指令で操作を完了させたというのです。 </strong></p> <p>自動化された機械によって新たな生命を生み出す環境が整えられつつあるのです。</p> <p>こうした画期的な技術は、生殖医療の常識を変え、世界中の不妊治療の現場に新しい風を吹き込むと期待されていますが、果たしてこれは本当に“次の当たり前”となっていくのでしょうか。</p> <p>研究内容の詳細は『<a href="https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2025.104943" target="_blank" rel="noopener">RBMO</a>』にて発表されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">職人芸に頼る不妊治療の限界</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">AI操作の体外受精で命を生み出す</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">ロボットは人の手を超えるのか?課題と未来図</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E8%81%B7%E4%BA%BA%E8%8A%B8%E3%81%AB%E9%A0%BC%E3%82%8B%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E9%99%90%E7%95%8C"></span><strong>職人芸に頼る不妊治療の限界</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175214" aria-describedby="caption-attachment-175214" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t170026-954" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/14453f46fa05e96c08cf0c9abca327da-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん" /></a><figcaption id="caption-attachment-175214" class="wp-caption-text">ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん / Credit:<a href="https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2025.104943" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Gerardo Mendizabal-Ruiz et al . RBMO (2025)</a></figcaption></figure> <p>不妊治療の世界では、卵子と精子を顕微鏡レベルで操作して受精させる顕微授精という技術が広く行われています。</p> <p>これは、まるで職人が極小の宝石を一つずつ手作業で磨き上げるかのような精巧さが求められ、術者の熟練度やその日のコンディションによっても仕上がりが変わってしまうという特徴がありました。</p> <p>いくら成功率が高いといっても、人によるばらつきや集中力の限界は避けられません。</p> <p>こうした制約を打破する鍵として期待されているのが、自動化と人工知能技術の活用です。</p> <p><strong>自動運転や産業用ロボットがそうであるように、もし受精のプロセスすら正確無比に機械が行えるならば、時間や場所を問わず安定した成果が得られるだけでなく、熟練技術者が不足する地域でも恩恵を受けられるようになります。 </strong></p> <p>顕微授精は1990年代に実用化されて以来大きな技術変化が少なかったのですが、ここへきて人工知能やロボット工学を組み合わせることで「人間の手を使わずに、ほぼ自動で受精を成立させる」試みに火がつき始めました。</p> <p>そこで今回研究者たちは、顕微授精のミクロレベルの作業工程を包括的に自動化すると同時に、遠隔地からも操作・監視できるシステムを構築し、その実力を実験的に確かめることにしました。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="AI%E6%93%8D%E4%BD%9C%E3%81%AE%E4%BD%93%E5%A4%96%E5%8F%97%E7%B2%BE%E3%81%A7%E5%91%BD%E3%82%92%E7%94%9F%E3%81%BF%E5%87%BA%E3%81%99"></span><strong>AI</strong><strong>操作の体外受精で命を生み出す</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175215" aria-describedby="caption-attachment-175215" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/708dfbb2a08d473b7cc8554399522386" class="css-attachment-link"><img width="859" height="585" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/708dfbb2a08d473b7cc8554399522386.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん" /></a><figcaption id="caption-attachment-175215" class="wp-caption-text">ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん / 図は、従来の微細操作用ワークステーションを基に、完全にモーター制御されデジタル操作が可能な遠隔顕微授精システムへと改造された実験環境を示しています。 まず中央には、反射型顕微鏡が配置され、これが全体の視覚的インターフェースとして機能しています。<strong> 顕微鏡には、高精度のモーター駆動式ステージが組み込まれており、試料である卵子や精子の位置を極めて微細に調整できるようになっています。</strong> また、温度管理が重要な細胞の生存環境を維持するために、加温ステージが設置され、常に最適な温度が保たれるようになっています。 図には、接触せずに精子を不動化するための非接触型レーザー装置が示され、これにより従来の物理的な操作に依存しない精密な処置が可能となっています。 さらに、卵子の膜を優しく侵すためのピエゾ素子が取り付けられ、微細な振動を制御して針の挿入を補助するシステムが組み込まれています。 <strong>標準のマイクロ注射装置も、油や気体による微量注入操作を実現するために、デジタル制御された注射システムとして配置されています。</strong> これらの装置はすべてカメラによるリアルタイム映像で監視され、オペレーターが遠隔地からでも正確な操作指令を送れるように統合されています。 図はまた、各機器がコンピュータ制御によって連動され、操作パネルからのデジタル信号によって微小な操作が一貫して実行される全体像を示しています。/Credit:<a href="https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2025.104943" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Gerardo Mendizabal-Ruiz et al . RBMO (2025)</a></figcaption></figure> <p>今回の研究では、熟練のテクニックを必要としてきた顕微授精の工程を、できる限り機械に任せられるようにするため、「自動化ワークステーション」という特別な装置が開発・利用されました。</p> <p><strong>従来なら熟練の胚培養士が手動で行う“極小レベル”の動作(例えば針を数ミクロン単位で動かして卵子に注入する、精子のしっぽをピタリと狙って動きを止める、顕微鏡のピントを合わせ続けるなど)を、全体で23ものステップに分けてプログラム化し、人工知能やロボット機構が自動で進めていくのです。 </strong></p> <p>さらにこのワークステーションのすごい点は、操作を担当する人が実際の実験室(今回の場合はメキシコの施設)にいなくてもいいところにあります。</p> <p>約3700キロ離れた場所から、インターネット越しに「針を〇ミリ右へ動かす」「卵子をゆっくり固定する」「精子の動きをレーザーで止める」といったデジタル指令をリアルタイムで送り、その通りにロボットが顕微鏡の下でミクロ単位の作業をこなしていきました。</p> <p>これはいわば、遠方から高精度のリモート操作ができる“医療版ドローン”のようなイメージといえるでしょう。</p> <p>実際の実験では、40歳の女性が治療に使う予定だったドナー卵子8個のうち5個を「遠隔・自動顕微授精」で受精させ、残り3個は従来の「手動顕微授精」(人間の胚培養士による従来技法)とし、結果を比較しました。</p> <p>遠隔・自動顕微授精の受精率は80%(5個のうち4個が正常に受精)、手動顕微授精では100%(3個中3個)でしたが、少ないサンプル数であることを考慮するといずれも高い成功率といえます。</p> <p>しかも、遠隔・自動顕微授精と手動顕微授精の両方で作られた受精卵は、いずれも2つずつ問題なく胚盤胞(着床可能な段階の胚)にまで育ちました。</p> <p><strong>ここで特筆すべきは、そのうち遠隔・自動顕微授精で作られた胚の一つをいったん凍結し、後日解凍して子宮に戻したところ、結果的に健康な男児が誕生したという点です。 </strong></p> <p>いわば「機械主体で受精した初めての赤ちゃん」がこの世に生まれたというわけで、世界中の生殖医療界に強烈なインパクトを与えています。</p> <p>ただし、今回のシステムでは23のステップ中、ほぼ半数(約50%)は完全に人工知能に任せられたものの、残りのステップや不測の事態には遠隔のオペレーターが補助的に指令を出していました。</p> <p>すべてを完璧に自動化できたわけではない点は今後の課題ですが、それでもおよそ半分は人間がタッチせずに自動で進むというのは極めて大きな進歩といえます。</p> <figure id="attachment_175213" aria-describedby="caption-attachment-175213" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t165623-811" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/3c98f7a03deea2d1e95816e20dd3a52e-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん" /></a><figcaption id="caption-attachment-175213" class="wp-caption-text">ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん / AIによって実際に操作が行われているシーン/Credit:<a href="https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2025.104943" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Gerardo Mendizabal-Ruiz et al . RBMO (2025)</a></figcaption></figure> <p>また、時間面の比較も興味深いところです。</p> <p>従来の手動顕微授精では、熟練の胚培養士が一つの卵子に精子を注入し終えるまで平均1分ほどしかかからないのに対し、遠隔・自動顕微授精では同じ作業に約10分かかりました。</p> <p>現状では手動のほうが圧倒的に速いわけですが、これはあくまで機械が試作段階であり、人工知能の学習データや操作インターフェースの改良によって大幅に短縮できる余地があると研究者たちは考えています。</p> <p>自動運転や産業用ロボットが急速に発展してきたように、顕微授精でも「手動より速く正確」という世界が訪れる可能性があるのです。</p> <p>一方、人間の直感や経験に支えられた「職人技」が不要になるわけではありません。</p> <p>今回の実験でも、初期セッティング(卵子や精子を培養皿に配置するなど)は現場のスタッフが実施しましたし、想定外のトラブルが起きたときには人の判断で修正を加える場面もありました。</p> <p>しかし、研究者たちは将来的にこれらの部分も含めて自動化できるかもしれないと期待しています。</p> <p>仮に全面的な自動化が難しくとも、多くの国や地域で専門家を招へいできずにいる医療現場が、このリモート技術を活用することで格段に高レベルの治療を提供できるようになるかもしれません。</p> <p>今後、改良と検証が進めば、世界中のどこにいてもインターネット回線さえ確保できれば、熟練者の目と手に近い精度で顕微授精を行い、さらに“いつでも同じ品質”の受精プロセスを実現できる未来が開けるでしょう。</p> <p>まさに人工知能とロボット技術による生殖医療の新時代を予感させる、大きな一歩といえます。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AF%E4%BA%BA%E3%81%AE%E6%89%8B%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%81%A8%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E5%9B%B3"></span><strong>ロボットは人の手を超えるのか?課題と未来図</strong><span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175216" aria-describedby="caption-attachment-175216" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t170713-231" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/7f8ebcf010fb0d51ccba59e86a656e41-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん" /></a><figcaption id="caption-attachment-175216" class="wp-caption-text">ほぼ完全にAI制御の機械による体外受精で生まれた世界初の赤ちゃん / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>今回の成果は、「職人芸」が求められてきた顕微授精というデリケートな工程を、どこまでロボットや人工知能の手に委ねられるかを試した点で画期的です。</p> <p>従来の顕微授精では、経験豊富な胚培養士が顕微鏡をのぞき込みながら何度も手元を微調整し、卵子の膜を破らないよう慎重に針を進め、精子を注入してきました。</p> <p>それはまるで、ガラス細工の職人が割れやすいガラスを扱うような熟練の世界でした。</p> <p>今回の研究では、その一連の工程のうち半分近くが、すでに機械だけでこなせることが証明されました。</p> <p>もちろん残りの工程では人間の判断や遠隔からの指示が必要でしたが、それでも「機械に任せておける部分」が大幅に広がったのは大きな前進といえます。</p> <p>ただし、「ほぼ自動化された顕微授精」は、まだ実験室レベルの話でもあります。</p> <p>たとえば、途中で機械のトラブルが生じた場合には、人間がリアルタイムで手を貸さないといけません。</p> <p>将来的にはこうしたトラブルシューティングも人工知能が行えるようになるかもしれませんが、現時点では「完璧な全自動化」には至っていないというのが正直なところです。</p> <p>それでも、卵子に針を刺す深さやタイミングといった、本来なら“神経を研ぎ澄ませて行う”細やかなステップを機械が正確にこなせる可能性を見せてくれたのは大きいでしょう。</p> <p>さらに今回の研究で注目すべきは、物理的に3700キロも離れた場所から指示を送り、極小の顕微操作を成功させた点です。</p> <p>これは、インターネット越しに「針をもう少し右へ」「卵子をゆっくり固定して」といった指令を一瞬の遅延もほとんどなく届けられることを意味します。</p> <p>まるで遠隔地にある精密な“分身ロボット”を操縦しているようなイメージです。</p> <p><strong>高速で安定したインターネット回線が前提になりますが、こうした通信インフラさえ確立されれば、熟練技術者が不足している地域や遠隔地であっても、トップレベルの顕微授精が実現できるかもしれません。 </strong></p> <p>このように、「いつでも、どこでも、一流の顕微授精を行えるかもしれない」という未来を感じさせる一方で、まだ残る課題も明らかになりました。</p> <p>自動操作はどうしても安全策を重視するあまり、手動より時間がかかる傾向があります。</p> <p>通常の顕微授精なら1分ほどで終わる工程が、機械を介すると10分近く要する場面がありました。</p> <p>しかし、これは自動運転車が開発初期にスピードを控えめにして安全性を確保していたのと同じで、システムが成熟すればもっと短縮できる可能性は十分にあります。</p> <p>現に人工知能分野では、学習データが増えるにしたがって作業効率や精度が飛躍的に向上する例が多々報告されています。</p> <p><strong>顕微授精でも同じように、大規模な臨床データを取り込みながら段階的に改良を進めていくことで、人間の職人技を上回る精度と速度の両立が視野に入ってくるでしょう。 </strong></p> <p>倫理面での懸念も無視できません。</p> <p>胚は将来の子どもになる存在であるため、ミスや想定外の事態があってはならない、という強い責任が伴います。</p> <p>今後、人工知能による自動操作がどこまで信用できるのか、人間による最終チェックや緊急時の介入はどの程度必要なのかなど、慎重な検討が求められるでしょう。</p> <p>医療行為としての安全基準や規制も、国や地域によって異なる可能性があります。</p> <p>ただ、その難しい課題をクリアした先に、多くの患者さんが「距離や技術者不足」の壁を越えて高度な不妊治療を受けられる未来が待っているかもしれません。</p> <p>近い将来、顕微授精のみならず、遺伝子スクリーニングや着床前検査など、さまざまな工程が自動化され、さらに遠隔地から操作・監視できるようになれば、不妊治療の常識は一変するでしょう。</p> <p>これからは「ロボットと人工知能が新しい命を育む時代」となりそうです。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/taigai-1-3">全ての画像を見る</a></p><p><strong>元論文</strong></p><p>Maze topiary in supergravity<br/>https://doi.org/10.1016/j.rbmo.2025.104943</p><p><strong>ライター</strong></p><p>川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175212/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>0</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175212</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/6a4831dc9c303b1b74f0573b41be74fb.jpg" length="73224" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/6a4831dc9c303b1b74f0573b41be74fb.jpg" width="1063" height="709" /> </item> <item> <title>ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196#respond</comments> <dc:creator><![CDATA[川勝康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 08:00:02 +0000</pubDate> <category><![CDATA[量子論]]></category> <category><![CDATA[シミュレーション]]></category> <category><![CDATA[ブラックホール]]></category> <category><![CDATA[量子力学]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175196</guid> <description><![CDATA[フランスのパリ・サクレー大学(Paris-Saclay)で行われた研究によって、ブラックホールの内部がまるで「多次元の超迷路」のような構造を秘めている可能性が示唆されました。  通常、光さえ脱出できない重力の井戸であるブラックホールの内側は、「特異点」という一点にすべてが押し込まれていると考えられてきました。 しかし本研究グループは、M理論や高次元ブレーン(膜)という視点を用いることで、ブラックホール内部をあたかも入り組んだ構造として描けるという新しいシナリオを提示しています。 複数のブレーンが重なり合い、情報を複雑に循環させ、時には外部へと抜け出す経路を生み出しうるのではないか――従来の常識を覆すこのアイデアはどこまで現実的なのでしょうか。 研究内容の詳細は『Journal of High Energy Physics』にて発表されました。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>フランスのパリ・サクレー大学(Paris-Saclay)で行われた研究によって、<strong>ブラックホールの内部がまるで「多次元の超迷路」のような構造を秘めている可能性が示唆されました。 </strong></p> <p>通常、光さえ脱出できない重力の井戸であるブラックホールの内側は、「特異点」という一点にすべてが押し込まれていると考えられてきました。</p> <p>しかし本研究グループは、M理論や高次元ブレーン(膜)という視点を用いることで、ブラックホール内部をあたかも入り組んだ構造として描けるという新しいシナリオを提示しています。</p> <p>複数のブレーンが重なり合い、情報を複雑に循環させ、時には外部へと抜け出す経路を生み出しうるのではないか――従来の常識を覆すこのアイデアはどこまで現実的なのでしょうか。</p> <p>研究内容の詳細は『<a href="https://doi.org/10.1007/JHEP03(2025)120" target="_blank" rel="noopener">Journal of High Energy Physics</a>』にて発表されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">光さえ届かぬ暗黒に潜む“多層構造”を追う</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">ブラックホールの内部構造を解明する</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">まとめ:ブラックホール内部に迫る――超迷路が示す新たな可能性</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E5%85%89%E3%81%95%E3%81%88%E5%B1%8A%E3%81%8B%E3%81%AC%E6%9A%97%E9%BB%92%E3%81%AB%E6%BD%9C%E3%82%80%E2%80%9C%E5%A4%9A%E5%B1%A4%E6%A7%8B%E9%80%A0%E2%80%9D%E3%82%92%E8%BF%BD%E3%81%86"></span>光さえ届かぬ暗黒に潜む“多層構造”を追う<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175203" aria-describedby="caption-attachment-175203" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t164007-870" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/ee13c7a964656a72c1c2cb7d84ff15e1-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175203" class="wp-caption-text">ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>私たちがよく想像するブラックホールは、すべてを呑み込んでしまう暗い球体で、その奥深くに特異点という無限の密度をもつ点があるイメージでしょう。</p> <p>ところが近年、量子力学や弦理論の視点を踏まえると、ブラックホールの内部には単なる一点ではなく、複雑に入り組んだ高次元空間が存在するかもしれないという考え方が浮上しています。</p> <p>たとえるならば、何層にも重なる巨大な構造がブラックホールの内側に広がり、落ち込んだ情報をある種の「回廊」へと導くようなイメージです。</p> <p>なぜこんなに回りくどい「迷路」などという概念が必要なのでしょうか。</p> <p>その根本には「ブラックホール情報喪失パラドックス」と呼ばれる難題があります。</p> <p>これは、ブラックホールの中に落ちた情報は本当に永遠に消えてしまうのか、それともどこかに蓄えられ、何らかの形で外部へ還元されるのか――という、大きな謎です。</p> <p>従来の一般相対性理論的な理解だけでは、ブラックホールの内部はただの“特異点”として終わり、情報が失われてしまうかのように見えます。</p> <p><strong>しかし、量子力学から見れば、情報は決して完全には消滅しないと考えられています。</strong></p> <p><strong>こうした食い違いを埋めるためには、ブラックホールの内部構造をもっと精巧に描き出す必要があるのです。</strong></p> <p>そこで登場するのが、「ブレーン」と呼ばれる高次元の膜です。</p> <p>弦理論やM理論では、粒子よりも高次元の広がりを持つ膜状の存在が基本的な構成要素になり得るとされ、これをM2ブレーンやM5ブレーンなどと呼びます。</p> <blockquote><p><strong>M2ブレーンとは</strong></p> <p>私たちは普段、物質を「粒子」としてイメージすることが多いですが、弦理論やM理論では「点」よりも高次元に広がった存在が重要になります。その一つがM2ブレーンです。直感的に言えば、ゴムシートのような面が広大な空間に浮かんでいるようなものを想像するとよいでしょう。これが揺らぎながら、他のブレーンや物質と相互作用することで、高次元における「場(フィールド)」や「力」を生み出すと考えられています。</p></blockquote> <blockquote><p><strong>M5ブレーンとは</strong></p> <p>M5ブレーンはM2ブレーンよりも次元数が高く、「5次元の広がり」をもつ膜です。数字が「5」になっているのは、時間軸を含めない空間的次元が5つあるからです。イメージとしては、さらに大きな膜状の構造が、何層にも畳まれたり、他の次元に巻き込まれたりして存在している感じです。M2が小さめの“シート”だとすれば、M5はより大きく、広い“シート”といえます。</p></blockquote> <p>ブラックホール内部にこのブレーンが何枚も重なり合っていると、ちょうど迷路のように入り組んだ経路ができあがり、その入り組んだ構造が「情報」を捕まえて離さない働きをしている、というわけです。</p> <p>ところが、多次元にわたり複数のブレーンが交差する様子は非常に複雑です。</p> <p>単純に「迷路になるかもしれない」と言っても、具体的にどのような条件で交差が起こり、そこに存在するはずの情報がいかに振る舞うのかを説明するのは容易ではありません。</p> <p>しかも、この“超迷路”を完全に解き明かすには、数学的にも高度な微分方程式を解きこなす必要があります。</p> <p>たとえば「M2ブレーンとM5ブレーンがどの角度で組み合い、どこに“通路”を作るのか」など、マルチレベルにわたるパラメータが絡むため、一筋縄ではいかないのです。</p> <p><strong>そこで本研究チームが注目したのは、「迷路方程式」というアプローチです。 </strong></p> <p>研究者たちは、この方程式が満たされると、驚くほど豊かなブラックホール内部の幾何学が一挙に描き出せると考えています。</p> <p>たとえるならば、複雑極まりない迷路を“ただ一つの地図”で丸ごと示すようなイメージです。</p> <p><strong>しかも、この迷路構造を把握できれば、ブラックホールに落ちた情報が実際にはどのような“道筋”を通って存在し続けるのかという問題に答えられる可能性があります。</strong></p> <p>研究チームの一人はプレスリリースの中で</p> <p>「この方程式が示す多彩な解が、ブラックホール内部に想像以上の柔軟性と可変性を与えている」</p> <p>と述べており、情報喪失パラドックスの解決策として期待が高まっているそうです。</p> <p>多次元ブレーンの配置や傾斜が少し変わるだけで、迷宮の中に新たな通路が開けたり、逆に完封状態になる可能性があるからです。</p> <p>そのため今回研究者たちは、M2ブレーンとM5ブレーンの交差構造をあらためて整理・分析し、どのような条件下で“超迷路”が成立するのか、そしてその迷路が情報を保持し得る物理的機構を明らかにすることにしました。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%86%85%E9%83%A8%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%99%E3%82%8B"></span>ブラックホールの内部構造を解明する<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175206" aria-describedby="caption-attachment-175206" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t164111-035" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/dacbc156afdae3ece57b4316c90f5638-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175206" class="wp-caption-text">ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>ブラックホール内部の物理機構はどうなっているのか?</p> <p>謎を解明するため研究者たちは、“実験”の代わりとして強力な数値シミュレーションと理論モデルの解析を組み合わせる方法を取りました。</p> <p>というのもブラックホールの内部を観測装置で覗き込むようなものではないからです。私たちの住む宇宙では、ブラックホールは強大な重力井戸として近づきがたく、光さえ逃げ出せないほどの極限環境だからです。</p> <p>そこであたかもコンピュータ上にブラックホールの仮想空間を用意し、そのなかで多次元ブレーンの「超迷路(supermaze)」を構築して動かしてみる――そうした手続きが行われたのです。</p> <p><strong>結果、「ブレーン同士が滑らかにつながり、“情報”が奥深くに閉じ込められる回廊ができる」ことを示す解が見つかったのです。</strong></p> <p>たとえるならば、迷路のあちこちが袋小路になっていて、そこに入り込んだ“情報”が外へは出にくくなる、というイメージです。</p> <p>一方で、ブレーンの“傾斜”や“重なり方”をほんの少し変えると、逆に情報が外側へと逃げ道を見つけられるようなルートが出現するパターンもあったといいます。</p> <p>これはまるで、一見同じように見える迷路でも、ほんのわずかな角度差によって出口が増えたり、ゴールとの距離が激変するようなもの。</p> <p>研究者たちはこの変化の大きさこそが、ブラックホール内部の「柔軟で多彩な構造」を裏づける手がかりだと捉えています。</p> <p>さらに興味深いのは、一部の解では「見かけ上はブレーンがほぼ同じ配置」に思えても、数値的に詳しく追うと内部の“回廊の形”ががらりと変わる場合があった点です。</p> <p>ブレーン間に生じる“細いトンネル”のような領域が出現し、そこを通じて局所的にエネルギーや情報が移動できるのだとか。</p> <p>こうした現象は、ブラックホールの情報喪失パラドックスを解決しうる可能性をより強く示唆します。</p> <p><strong>なぜなら「完璧に閉じこめられる」という状態ばかりでなく、「どこかを通って(ホライゾンの外側を含む)別の領域へ抜け出せる」シナリオも描きうるからです。</strong></p> <blockquote><p>研究者曰く、</p> <p>「まるで鍵のかかった迷宮の扉が、ある設定では開くけれど、ほんの少し条件を変えるだけで閉まってしまう。そういう柔軟性こそが、ブラックホール内部が意外に“情報を翻弄できる舞台”になっていることの証拠なのだ」</p> <p>とのこと。</p></blockquote> <p>実際の数値シミュレーションは非常に膨大なパラメータを試行し、迷路方程式の解の特徴を一つひとつ整理するだけでも相当な時間と計算リソースを要するそうですが、そのぶん発見されるパターンの豊かさは驚くべきものでした。</p> <p>これはブラックホール内部の多様性や、情報を保持・再放出する能力を説明するうえで大きな手がかりになるでしょう。</p> <p>次のステップとしては、これら数値結果と理論解を突き合わせ、実際にホログラフィーや量子計算の観点から“迷路の出口”がどう描かれているのかをより正確に把握することが期待されています。</p> <p>研究チームが「まだまだ探索しきれていない解が無数に埋まっている」と語るように、ブラックホールの内部がどれほど奇妙で興味深い世界なのか、今後ますます解明が進むかもしれません。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81%EF%BC%9A%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%86%85%E9%83%A8%E3%81%AB%E8%BF%AB%E3%82%8B%E2%80%95%E2%80%95%E8%B6%85%E8%BF%B7%E8%B7%AF%E3%81%8C%E7%A4%BA%E3%81%99%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7"></span>まとめ:ブラックホール内部に迫る――超迷路が示す新たな可能性<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175207" aria-describedby="caption-attachment-175207" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t164226-154" class="css-attachment-link"><img width="900" height="506" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/82155ad5f92d762fe480d239127918d3-900x506.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている" /></a><figcaption id="caption-attachment-175207" class="wp-caption-text">ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている / Credit:Canva</figcaption></figure> <p>今回の研究から見えてきた姿は、ブラックホールという一見シンプルな天体が、実は「多次元的な巨大迷路」を内部に抱えているかもしれない、という驚きのイメージです。</p> <p>しかも、その迷路は一度固定された構造ではなく、ブレーン(膜)の配置や角度、エネルギーのやり取りなど、ほんのわずかなパラメータの変化で形を大きく変えられるというのです。</p> <p>もしブラックホールの内側が“ただの黒い空間”や“究極の特異点”ではなく、多層的で流動的な迷路のようなものだとしたら、一体どんなことが起きるでしょうか。</p> <p><strong>たとえば、落ち込んだ情報がひっそりとホライゾンの奥に閉じ込められるだけでなく、迷路を巡り巡って別の出口や通路へたどり着く――つまり、ある種の“抜け道”を通って再び外へ出られる可能性すら浮上します。</strong></p> <p>これは、ブラックホールの内側で情報が完全に消滅してしまうという従来のイメージを、根本的に書き換えるものかもしれません。</p> <p>もっと言えば、「迷路」の各通路は高次元に広がるブレーンによって形成されているため、その通り道自体も柔軟に変形します。</p> <p>たとえるならば、壁や床が自在に動いてしまう迷路の中で、情報という“訪問者”が四苦八苦しているイメージです。</p> <p>結果として、一度ある場所に落ち着いていたはずの情報が、ブレーンの変形によってふと別の場所へ流れ込んでいく――そんな動的なシナリオもあり得るのです。</p> <p>当然、このような壮大な“動く迷路”をすべて数式で描ききるのは容易ではありません。</p> <p>研究者たちが導入した「迷路方程式」も、まだ一部のパラメータや特定の対称性を前提にして解かれた段階です。</p> <p>それでも、今回の成果が強く示唆するのは「ブラックホールの内部は、ちょっとやそっとの条件変更で激しく構造が変わる柔軟な世界」ということです。</p> <p><strong>これは情報喪失パラドックスに関する議論で、よく言われていた「落ち込んだ情報が戻るのか戻らないのか」という単純な二択を越え、「内部の迷路の作り方次第で、さまざまなパターンがあり得る」と再認識させてくれます。</strong></p> <p>ただし、このモデルにも未解明の部分は数多く残っています。</p> <p>そもそも、多次元ブレーンの配置がより複雑になればなるほど、迷路方程式はどんどん手強いものになるからです。</p> <p>まだ見ぬ解や特異な構造が無数に埋まっている可能性もあります。</p> <p>さらに、ブラックホールを取り巻く量子効果や実際の観測データとのすり合わせなど、まだ検討すべき要素はたくさんあります。</p> <p>しかし、それこそが本研究の意義ともいえます。</p> <p>ブラックホールを“真っ黒で何もわからない存在”と見なすのではなく、「内側には多層構造があって、情報を閉じ込めたり外へ逃がしたりする迷路が広がっている」と考えることで、私たちの想像力が一気に広がるのです。</p> <p>たとえば、重力波の観測データやブラックホールの合体過程に、この超迷路がどんな影響を与えるのか――将来的にそうした観測結果から、この迷路の足跡を間接的に読みとる日が来るかもしれません。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196/16%ef%bc%99-2025210%e3%82%88%e3%82%8a-2025-04-11t164349-320">全ての画像を見る</a></p><p><strong>元論文</strong></p><p>Maze topiary in supergravity<br/>https://doi.org/10.1007/JHEP03(2025)120</p><p><strong>ライター</strong></p><p>川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175196/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>0</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175196</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/3aa8fcd92e1cad70774e88a196a27206.jpg" length="78460" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/3aa8fcd92e1cad70774e88a196a27206.jpg" width="1063" height="709" /> </item> <item> <title>銃弾を受けクチバシを失いかけたワシ、7度の手術で「回復」の兆し</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129#respond</comments> <dc:creator><![CDATA[千野 真吾]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 03:00:34 +0000</pubDate> <category><![CDATA[動物]]></category> <category><![CDATA[ストレス]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175129</guid> <description><![CDATA[2024年7月、米ミズーリ州で、無残な姿をしたハクトウワシが発見されました。 クチバシの上部が銃弾によって無惨にえぐり取られており、ほとんどちぎれかけていたのです。 その後、猛禽類の保護団体「ワールド・バード・サンクチュアリ(World Bird Sanctuary)」が救助し、懸命な治療と7度にわたる大手術を行いました。 そしてこのほど、ハクトウワシは大きく回復に向かっており、クチバシの再生も良好であると同団体が報告しています。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p data-pm-slice="1 1 []">2024年7月、米ミズーリ州で、無残な姿をしたハクトウワシが発見されました。</p> <p><strong>クチバシの上部が銃弾によって無惨にえぐり取られており、ほとんどちぎれかけていた</strong>のです。</p> <p>その後、猛禽類の保護団体「ワールド・バード・サンクチュアリ(<a href="https://www.worldbirdsanctuary.org/a-shot-bald-eagle-sees-hope/" target="_blank" rel="noopener">World Bird Sanctuary</a>)」が救助し、懸命な治療と7度にわたる大手術を行いました。</p> <p>そしてこのほど、<strong>ハクトウワシは大きく回復に向かっており、クチバシの再生も良好である</strong>と同団体が報告しています。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">銃撃でクチバシが千切れかけていた</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">クチバシの再生が確認される!</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E9%8A%83%E6%92%83%E3%81%A7%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%90%E3%82%B7%E3%81%8C%E5%8D%83%E5%88%87%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%81%91%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%9F"></span>銃撃でクチバシが千切れかけていた<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p data-pm-slice="1 1 []">2024年7月11日、米国中部ミズーリ州ビエナの道路脇で、顔に明らかな外傷を負ったオスのハクトウワシが発見されました。</p> <p>後に<strong>「ハクトウワシ24-390(Bald Eagle 24-390)」</strong>と命名され、ワールド・バード・サンクチュアリの研究者たちは単に<strong>「390」</strong>との愛称で呼んでいます。</p> <p>390はクチバシの大部分と左の翼に深刻な損傷を負っていました。</p> <p>傷のパターンと金属片の検出から、<strong>原因は銃撃によるもの</strong>と判明しています。</p> <figure id="attachment_175142" aria-describedby="caption-attachment-175142" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t102740-875" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/7f8f6d90e1177ad373b9bf84a6c8bcc5-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175142" class="wp-caption-text">銃撃を受けた390/ Credit:<a href="https://www.worldbirdsanctuary.org/a-shot-bald-eagle-sees-hope/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">World Bird Sanctuary</a></figcaption></figure> <p>搬送後、緊急での手術が実施され、クチバシの骨折部分に8本の金属製クロスピンが固定されました。</p> <p>クチバシは<strong>「ケラチン」</strong>というタンパク質からできており、人間の爪とや毛髪と同様に常に再生を続けています。</p> <p>しかし390の場合、ケラチンの成長床が損傷していたことに加え、クチバシの土台となる骨も大きく欠損していたため、再生の見込みは不透明でした。</p> <p>実際、最初のケガによってその骨の一部が大きく失われており、外側部分に栄養を運ぶ組織や血流が制限されていたといいます。</p> <p>その後、<strong>約9カ月の間に7回の手術と数えきれないほどの洗浄処置</strong>が行われ、感染症や骨の癒合不全といったリスクに細心の注意が払われました。</p> <p>懸命の治療の甲斐もあり、クチバシに取り付けられた外部サポートは取り外され、再生しきれていないクチバシの欠損部には歯科用アクリルが装着されています。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%90%E3%82%B7%E3%81%AE%E5%86%8D%E7%94%9F%E3%81%8C%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%EF%BC%81"></span>クチバシの再生が確認される!<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p data-pm-slice="1 1 []">390のケアにおいて最も重要とされたのが、栄養とストレス管理でした。</p> <p data-pm-slice="1 1 []">390のような鳥のケラチンの再生を促すためには、良好な栄養状態とストレスの少ない環境が最も重要です。</p> <p data-pm-slice="1 1 []">「ストレスはクチバシの成長を妨げます。動物が“生き延びるためのモード”に入ると、余分なエネルギーがストレス対処に使われ、クチバシの再生に回すエネルギーがなくなってしまうからです」と同団体のキラ・クレベ(Kira Klebe)氏は述べています。</p> <p>390には猛禽類専用のビタミンやカルシウムサプリメントが与えられ、栄養がクチバシの再生にも使われるように調整されています。</p> <p>また、2025年2月以降は施設内でも最大規模のリハビリ用飼育ケージに移され、他のハクトウワシと交流しながらも、人間との接触を最小限に抑えた静かな環境が整えられました。</p> <figure id="attachment_175143" aria-describedby="caption-attachment-175143" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t103111-596" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/25d6a9336ebb9cda7b4893707dbafa14-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175143" class="wp-caption-text">再生が確認されたクチバシ/ Credit:<a href="https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=1087216436777313&amp;id=100064669000554&amp;mibextid=wwXIfr&amp;rdid=a0nMlPsmGuxtZspE#" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">World Bird Sanctuary(Facebook)</a></figcaption></figure> <p>そして<strong>2025年4月5日、ついにクチバシの右側にケラチンの再生が確認され始めた</strong>のです。</p> <p>最初に治癒した部位から少し粗い状態で成長が始まっており、今後はドリル工具で形を整えながら自然なクチバシに近づけていく方針です。</p> <p>完全な再生にはまだ時間がかかる見込みであり、野生への復帰にはあと1年のケアが必要とされています。</p> <p>骨の治癒が終わり、ケラチンの成長も始まった今、あとは基本的に“待つ”段階に入りました。</p> <p>スタッフは古いケラチンがどう磨耗していくかを注意深く観察しながらも、できるだけ手を出さず、ストレスを避けるようにしています。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-11t103329-334">全ての画像を見る</a></p><p><strong>参考文献</strong></p><p>Bald eagle’s beak healing following gunshot wound<br/>https://www.popsci.com/environment/bald-eagle-healing-gunshot/</p><p><strong>ライター</strong></p><p>千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175129/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>0</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175129</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/25d6a9336ebb9cda7b4893707dbafa14.jpg" length="113748" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/25d6a9336ebb9cda7b4893707dbafa14.jpg" width="900" height="600" /> </item> <item> <title>ウザイ癖「指トントン」に隠された効果!実は「雑音中でも話がスッと頭に入る」裏技だった</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120#comments</comments> <dc:creator><![CDATA[大倉康弘]]></dc:creator> <pubDate>Fri, 11 Apr 2025 02:30:00 +0000</pubDate> <category><![CDATA[脳科学]]></category> <category><![CDATA[フランス]]></category> <category><![CDATA[実験]]></category> <category><![CDATA[脳]]></category> <category><![CDATA[言語]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175120</guid> <description><![CDATA[会議中、誰かが机を「トントン、トントン」と指で叩き始めたら、あなたはどう思いますか? 「うるさいな、集中できないよ…」と感じる人も多いかもしれません。 一方で、緊張したときや何かに集中したいとき、自分でも無意識に指をトントンとリズムよく叩いていることはないでしょうか? 実はこの“うざい癖”と思われがちな「指トントン」には、驚くべき認知効果が隠されていたのです。 フランスのエクス=マルセイユ大学(AMU)の研究チームは、リズミカルに指を叩く動作が、人の「聞き取り能力」を向上させる可能性を発見しました。 研究の詳細は、2025年4月9日付の『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されました。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p data-pm-slice="1 1 []">会議中、誰かが机を「トントン、トントン」と指で叩き始めたら、あなたはどう思いますか?</p> <p>「うるさいな、集中できないよ…」と感じる人も多いかもしれません。</p> <p>一方で、緊張したときや何かに集中したいとき、自分でも無意識に指をトントンとリズムよく叩いていることはないでしょうか?</p> <p><strong>実はこの“うざい癖”と思われがちな「指トントン」には、驚くべき認知効果が隠されていたのです。</strong></p> <p>フランスのエクス=マルセイユ大学(AMU)の研究チームは、<strong>リズミカルに指を叩く動作が、人の「聞き取り能力」を向上させる可能性を発見</strong>しました。</p> <p>研究の詳細は、2025年4月9日付の『<a href="https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0354" target="_blank" rel="noopener">Proceedings of the Royal Society B</a>』に掲載されました。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">うざい癖「指トントン」に秘められた力を探る研究</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">話を聞く時の指トントンは「雑音フィルター」になる可能性</li></ul></div> <h2 data-pm-slice="1 1 []"><span class="ez-toc-section" id="%E3%81%86%E3%81%96%E3%81%84%E7%99%96%E3%80%8C%E6%8C%87%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%80%8D%E3%81%AB%E7%A7%98%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%8A%9B%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B%E7%A0%94%E7%A9%B6"></span>うざい癖「指トントン」に秘められた力を探る研究<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>人は昔から、リズムと行動を結びつけることで注意や集中力を調整してきました。</p> <p>音楽に合わせて体を揺らす、勉強中に鉛筆をクルクル回す、面接の直前に足をトントンと動かす。</p> <p>こうした一見「無意味」なリズム行動には、実は<strong>脳の処理能力を高める効果</strong>があるのではないかと、近年注目されています。</p> <p>その中には、「<strong>リズムプライミング効果</strong>」も含まれます。</p> <p>これは、<strong>規則的なリズム刺激が脳の神経活動のタイミングを整え、その後に提示される文の文法判断や文理解といった言語処理能力を一時的に高める現象</strong>です。</p> <p>例えばこれまでには、「言語障害のある子供を対象にしたセラピー」などの分野で研究されてきました。</p> <p>しかし、より広い分野への応用研究はほとんど行われていません。</p> <figure id="attachment_175123" aria-describedby="caption-attachment-175123" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%87%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-10t223521-413" class="css-attachment-link"><img width="840" height="560" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/2afd0718cd7895c9ee15a394beb5c0d1.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175123" class="wp-caption-text">指トントンに秘められた効果を検証 / Credit:<a href="https://www.canva.com/photos/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Canva</a></figcaption></figure> <p>そんな中、フランスのエクス=マルセイユ大学の研究者たちは、指タッピング(指トントン)によるリズムプライミング効果を確かめたいと思いました。</p> <p>「<strong>この指トントンによっても脳のリズムを整えることができるなら、会話への同調率が高まり、言葉の理解力が上がるのではないか?</strong>」と考えたのです。</p> <p>研究チームはこの仮説を検証するため、健常な大人(数十人)を対象にした実験を行いました。</p> <p>実験では、ノイズの混じった会話音声を参加者に聞かせる状況を作り、その際に音声のリズムと同期するように指をリズミカルに叩かせることにしました。</p> <p>ちなみに、指トントンの動作は<strong>自由なリズムではなく、音声(音の強弱やリズム)にできるだけ合うように指導</strong>されました。</p> <p>音声には音節や単語ごとに異なるリズムがあるため、脳をこのパターンに合わせるようにすることで、リズミカルな言語を適切に処理できる可能性があると考えたのです。</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E8%A9%B1%E3%82%92%E8%81%9E%E3%81%8F%E6%99%82%E3%81%AE%E6%8C%87%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%80%8C%E9%9B%91%E9%9F%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%80%8D%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7"></span>話を聞く時の指トントンは「雑音フィルター」になる可能性<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>実験は3種類行われましたが、結果は、研究者たちの仮説を見事に裏付けるものでした。</p> <p><strong>ノイズの多い環境では、音声のリズムと指のタッピングを同期させていた参加者の方が、会話の内容を正確に理解できる確率が有意に高かった</strong>のです。</p> <p>そしてある実験では音楽のビートも確かめられました。</p> <p>しかし、指トントンせずに音楽のビートを聞くだけでは、この効果がそれほどあらわれませんでした。</p> <p>このことは、<strong>能動的に指でリズムを取ることが、言語理解を高める鍵である</strong>ことを示唆しています。</p> <figure id="attachment_175124" aria-describedby="caption-attachment-175124" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a-900-x-600-px-2025-04-10t230001-194" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/e0bd31d951d50e558d84ff29270389d3-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175124" class="wp-caption-text">音声に合わせて指トントンすると、雑音の中でも話を聞き取りやすくなる / Credit:<a href="https://chatgpt.com/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部</a></figcaption></figure> <p>研究チームは、リズム運動によって脳内のタイミング処理が音声入力と同期しやすくなり、言語情報のピックアップ効率が上がると説明しています。</p> <p>つまり「聞き取りにくい…」と感じるような場面でも、音声のリズムに合わせて指を軽くトントンするだけで、<strong>脳が“話の流れ”を掴みやすくなる</strong>というわけです。</p> <p>とはいえ、今回の研究にはいくつか限界があります。</p> <p>例えば、サンプル数が大きくないこと、参加者たちは若いフランス語話者に限られていたことなどです。</p> <p>それでも今回の研究結果は、教育現場や語学学習、高齢者の聞き取り支援など、さまざまな分野での可能性を秘めています。</p> <p><strong>「うざい癖」だと思っていた指トントンは、脳が外の世界とタイミングを合わせようとする“リズムの橋”だったのです。</strong></p> <p>もし今度、雑音の中で誰かの話を聞くタイミングがあれば、「うざい」と思われるのを覚悟で、指トントンしてみてください。</p> <p>相手の話を聞き取りやすくなるかもしれません。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%87%e3%82%b6%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-10t225933-509">全ての画像を見る</a></p><p><strong>参考文献</strong></p><p>Brainpower boosted by tapping out a specific rhythm, study finds<br/>https://newatlas.com/learning-memory/tapping-finger-hearing-comprehension/</p><p><strong>元論文</strong></p><p>Moving rhythmically can facilitate naturalistic speech perception in a noisy environment<br/>https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0354</p><p><strong>ライター</strong></p><p>大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175120/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>2</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175120</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/e0bd31d951d50e558d84ff29270389d3.jpg" length="110183" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/e0bd31d951d50e558d84ff29270389d3.jpg" width="900" height="600" /> </item> <item> <title>「もっと美しくなれる」と信じる人ほど、リスク行動を取りやすかった!</title> <link>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066</link> <comments>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066#comments</comments> <dc:creator><![CDATA[千野 真吾]]></dc:creator> <pubDate>Thu, 10 Apr 2025 22:00:24 +0000</pubDate> <category><![CDATA[心理学]]></category> <category><![CDATA[生活]]></category> <guid isPermaLink="false">https://nazology.kusuguru.co.jp/?p=175066</guid> <description><![CDATA[みなさんは「美は手に入れられるもの」と考えるでしょうか、それとも「美は生まれつきのもので、努力ではどうしようもない」と考えるでしょうか? 実はこの「美」への考え方がリスク行動と大いに関係していることが明らかになりました。 ポルトガル・ノヴァ経済経営大学(NOVA School of Business and Economics)の最新研究で、「美は努力次第で手に入れられる」「自分はもっと美しくなれる」と考える人は、リスク行動を積極的に取りやすいことが示されたのです。 一体なぜでしょうか? 研究の詳細は2025年4月2日付で学術誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されています。]]></description> <content:encoded><![CDATA[<p>みなさんは<strong>「美は手に入れられるもの」</strong>と考えるでしょうか、それとも<strong>「美は生まれつきのもので、努力ではどうしようもない」</strong>と考えるでしょうか?</p> <p>実はこの「美」への考え方がリスク行動と大いに関係していることが明らかになりました。</p> <p>ポルトガル・ノヴァ経済経営大学(NOVA School of Business and Economics)の最新研究で、<strong>「美は努力次第で手に入れられる」「自分はもっと美しくなれる」と考える人は、リスク行動を積極的に取りやすい</strong>ことが示されたのです。</p> <p>一体なぜでしょうか?</p> <p>研究の詳細は2025年4月2日付で学術誌『<a href="https://doi.org/10.1177/01461672251327605" target="_blank" rel="noopener">Personality and Social Psychology Bulletin</a>』に掲載されています。</p> <div id="ez-toc-container" class="ez-toc-v2_0_11 counter-hierarchy counter-decimal ez-toc-grey"> <div class="ez-toc-title-container"> <p class="ez-toc-title">目次</p> <span class="ez-toc-title-toggle"></span></div> <ul class="ez-toc-list ez-toc-list-level-1"><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">「美しさは手に入る」と考える人ほど、身を危険に晒しやすい</li><li class="ez-toc-page-1 ez-toc-heading-level-2">なぜリスク行動を取りやすいのか?</li></ul></div> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%80%8C%E7%BE%8E%E3%81%97%E3%81%95%E3%81%AF%E6%89%8B%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B%E4%BA%BA%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%80%81%E8%BA%AB%E3%82%92%E5%8D%B1%E9%99%BA%E3%81%AB%E6%99%92%E3%81%97%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84"></span>「美しさは手に入る」と考える人ほど、身を危険に晒しやすい<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <p>今や、美への欲求が私たちの生活に与える広範な影響を認めないわけにはいきません。</p> <p>2023年時点で、美容コンテンツは音楽とライフスタイルに次いで、Instagramにおける世界のインフルエンサーたちの中で3番目に人気のあるカテゴリーとなっています。</p> <p>こうした背景から、化粧品産業は世界中で成長を続けており、美容整形やスキンケアといった「美しくなるための努力」は、ごく一般的な選択肢になっています。</p> <p>これほど多くの美容法が身近にある今、ふと立ち止まって考えることはないでしょうか?</p> <p>それは<strong>「見た目の美しさは本当に努力で高められるものなのか? それとも美しさは生まれつきのものであり、努力ではどうしようもないのか?」</strong>という問題です。</p> <p>この問いに対する考え方は人それぞれでしょう。</p> <p>「見た目のよさは生まれつき決まっており、どれだけ美容を頑張っても限界がある」と考える人もいますし、反対に「整形や化粧の仕方で美しさはどうにでもなる。自分は今よりもっと美しくなれる」と考える人もいます。</p> <p>別に、どちらが正しくて、どちらが間違っていると決めることが重要なのではありません。</p> <p>そうではなく、研究チームは今回、<strong>「見た目の美しさ」に対する考え方がリスク行動とどのように関係しているか</strong>に焦点を当てました。</p> <figure id="attachment_175067" aria-describedby="caption-attachment-175067" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-10t165259-810" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/61e48c9d51977b67427c3df136a68ca6-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175067" class="wp-caption-text">Credit: <a href="https://www.canva.com/photos/search/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AF/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">canva</a></figcaption></figure> <p>チームは4000人以上の参加者を対象に実験を実施。</p> <p>美に対する信念とリスク行動傾向との関連を調べた結果、興味深いことに、<strong>「美しさは手に入れられる」と強く信じている人は、「美しさは変えられない」と考える人よりも、ギャンブルや危険行動を含むリスク行動を取りやすい</strong>ことが明らかになったのです。</p> <p>たとえば、意思決定のシナリオでは、「200ドルを得られる確率80%、何も得られない確率20%」という選択肢よりも、「800ドルを得られる確率20%、何も得られない確率80%」という選択肢を好む傾向が見られました。</p> <p>これは経済的リスク選好の一例です。</p> <p>また、危険な登山道に挑戦したり、やや危険なスキーコースを滑ったりする可能性も高くなるなど、身体的リスクに対しても積極的になる傾向が確認されました。</p> <p>では、なぜ「美しさは手に入れられる」と考える人は、リスク行動を取りやすいのでしょうか?</p> <h2><span class="ez-toc-section" id="%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E8%A1%8C%E5%8B%95%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F"></span>なぜリスク行動を取りやすいのか?<span class="ez-toc-section-end"></span></h2> <figure id="attachment_175068" aria-describedby="caption-attachment-175068" class="wp-caption alignnone"><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-10t165417-172" class="css-attachment-link"><img width="900" height="600" src="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/a1872bc133699a524d3c5e0c912be416-900x600.jpg" class="attachment-mobile-full size-mobile-full" alt="画像" /></a><figcaption id="caption-attachment-175068" class="wp-caption-text">Credit: <a href="https://www.canva.com/photos/search/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AF/" target="_blank" rel="noopener noreferrer" data-wpel-link="external">canva</a></figcaption></figure> <p>チームは調査結果の分析から、リスクをとる行動が増える背景には<strong>「楽観主義の高まり」</strong>があることを観察しました。</p> <p>具体的には、「美しさは努力で高められる」と信じる人はそもそも、<strong>「人生におけるどんな難題も努力次第で良い結果が得られるはずだ」</strong>と考える傾向にありました。</p> <p>つまり、物事をポジティブに考える性質を持っていたので、身体的・経済的にリスクのある行動も「なんとかなる」と考えて、積極的に危険に身を晒していたと考えられるのです。</p> <p>実際に、美容整形といった外科手術も少なからず常にリスクがあります。</p> <p>しかし「自分は今よりもっと美しくなれる」と信じている人たちは、良い結果を期待してリスク行動を取れるのだと考えられます。</p> <p>今回の研究は、「美しさは変えられる」という信念が、単に美容へのモチベーションを高めるだけでなく、<strong>人生全般への姿勢や意思決定にまで影響を及ぼしている</strong>ことを示しています。</p> <p>その一方で、過度なリスクテイク行動や楽観主義が、危険な事故や怪我を負うリスクを高めることは確かです。</p> <p>人生においてリスクを取ることは大事ですが、身の破滅に繋がらない、程よいバランスを見極めることも大切でしょう。</p> <p><a href="https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066/%e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%83%86%e3%82%99%e3%82%b5%e3%82%99%e3%82%a4%e3%83%b3-2025-04-10t165550-161">全ての画像を見る</a></p><p><strong>参考文献</strong></p><p>Belief in the malleability of beauty makes people take more risks, study finds<br/>https://phys.org/news/2025-04-belief-malleability-beauty-people.html</p><p><strong>元論文</strong></p><p>The Growth Mindset of Beauty Promotes Risk-Taking Propensity and Behavior<br/>https://doi.org/10.1177/01461672251327605</p><p><strong>ライター</strong></p><p>千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。</p><p><strong>編集者</strong></p><p>ナゾロジー 編集部</p>]]></content:encoded> <wfw:commentRss>https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/175066/feed</wfw:commentRss> <slash:comments>1</slash:comments> <post-id xmlns="com-wordpress:feed-additions:1">175066</post-id><enclosure url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/e5061da2f166e338515f46f781ab06a4.jpg" length="59348" type="image/jpeg" /> <media:content medium="image" type="image/jpeg" url="https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/04/e5061da2f166e338515f46f781ab06a4.jpg" width="900" height="600" /> </item> </channel> </rss>

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